人形の家

文字数 1,455文字

 夜中になると人形が動き始める。
 そういう噂のある家の留守番を、私は引き受けることになった。
 私はこういった類の怪奇現象を、全く信じない。
 できることなら、一度この目で確かめたいものだと思っていた。
 家主は私の知り合いの知り合いだった。
 知り合いからの頼みを、ことわる理由もさしてなかったことから、気安く留守番を引き受けたのだ。
 家はだだっ広い旧日本家屋の平屋で、庭には大きな池があり池には鯉がたくさん飼われていた。庭で土佐犬を飼い室内では猫を四匹飼っている。
 留守中の私の役目は、これらに餌をやったり、散歩に連れて行ったりするだけの事である。一日当たり一万円ももらえるのなら、結構なバイトだと思い引き受けたのである。
 この家の中に入る瞬間、僅かに陰気な気配を感じたが、気にする程ではなかった。
 家主は高齢で足が不自由な事から、室内でも車いすを使っており、そのため室内は全てバリアフリー化されていた。
 各部屋を覗いてみたら、部屋ごとにたくさんの人形が置いてあった。どこにでもあるような、普通の人形にしか見えない。こんな人形が動くわけがないと思った。
 家主はよく海外旅行をするようで、その度に人形を買って帰るようだ。旅行するたびに人形を買ってくるので、今となっては数え切れない程の人形が置いてある。
 ある部屋をのぞいた時、人形の目がかすかに光ったように感じた。気のせいだと思い気にしなかった。
 家主は台湾に行っているようで留守番は四日間だった。一日目はさすがに少し気になったのか妙に寝付きにくかった。しかしそれも暫くしたらぐっすり眠り気がついたら朝になっていた。二日目は、問題なくすんなりと眠れた。
 しかし三日目の夜のことだ。
 何か気配を感じて、夜中に目を覚ました。耳を澄ませていると、廊下の方から小さい物音がする。何だろうと思い廊下をのぞくと、あちこちの部屋から出てきた人形が、神棚のある部屋に向かって進んでいる。神棚の部屋には、日本人形が置いてあった。
 人形達はトコトコトコトコと廊下を進んでいる。フランス人形、中国人形、ロシア人形、ブラジル人形等々。様々な国の人形たちが動いている。私は目の前をトコトコトコトコ進む人形達を見ても、現実のこととは思えず、夢か幻かと思った。
 神棚の部屋に入っていった人形達は、神棚の前で横一列に整列している。日本人形が前に立ち、他の人形と対面する形になっている。
 暫くすると人形達は、神棚の前で輪になって廻り始めた。
 これは人形界の神事か何かだろうか?
 人形達は何時までも輪になったまま廻り続けている。まるで田舎の盆踊りの様に静かに廻っている。
 その内部屋がゆらゆらゆらゆらと揺らぎはじめた。地震かと思ったが何時まで経っても揺れが止まない。ぐにゃぐにゃとコンニャクの様に激しくゆがむ壁や天井が今にも崩れ落ちそうな恐怖を覚える。そんな中でも人形達は静かに踊り続けている。
 やがて何処かからひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひはははははははははははははははははははははははははうううううううううううううううううううううううううひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひはははははははははははははははははははははははははうううううううううううううううううううううううううという笑い声か泣き声かわからない不気味な声が聞こえはじめ、その声が大きくなるにつれ揺れもますます大きくなり、私はその場に立っていることができなくなり、蹲り耳をふさいでいるとやがて気を失った。
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