嫉妬

文字数 1,180文字

 私は人事異動で変わる前の、図書館に来ている。
 異動後はじめて顔を出した図書館で、後任の館長になる後輩と、仕事の事について話している。
 今日は館内整理の日なのだろう、作業着姿の女子職員たちが、休憩時間に事務室で休んでいる。
 私は久しぶりに女子職員にあったのだ。
 しかし女子職員の反応は、以前私の部下だった時の様ではない。
 何処か余所余所しいのである。
 私は五人いる女子職員たちを、色んな意味で守り育ててきた。
 古くからここにいる子たちは、私への配慮からか、あからさまに冷ややかな態度はとらない。
 それでも何処となく、もう上司でなくなった私に、以前の様に気を使う事は無い。
 それは組織の人間としては、ある意味当たり前である。
 私が勝手に彼女たちに、恩を売っているのであるが、やっぱり何処か遣り切れない思いがある。
 この子たちは私への恩を忘れてしまったのか、と思うと一抹の寂しさがあった。
 後輩の館長になる男が、何やら女子職員たちと、仕事とは関係のない話をしている。
 図書館での勤務年数の浅いある女子職員が、後輩の館長のくだらないジョークによく笑い、相槌を打っている。私がいた時には、あまり見せた事のない態度である。
 その姿を見て私は腹が立った。
 今日私がここに顔を出してから、彼女はまだ私に一言も挨拶をしていないのである。
 どうやら私は、嫉妬しているらしい。
 そうだ私は、彼女に好意を持っていたのだ。
 彼女は可愛い顔をしているが、どうやら浮世離れした幽霊の様な雰囲気があり、その怪しげなところにも惹かれていたのだ。
 私の時にはあまり見せない顔を、後輩の館長の前で見せている事に、私は焼き餅を焼いている。
 彼女の私に対する嫌がらせかとも思ったが、そんな事をするタイプにも思えない。
 私は真意を確かめたくて、彼女と閉架書庫で話をした。
 彼女は、私に会えて嬉しいと言った。
 しかし、今は、後輩の館長の方が好きだと言う。
 理由を聞くと、後輩の館長は優しいし、私のモノより後輩のモノの方が大きくてサイズがぴったりだし、私より愛撫が丁寧で上手いし、何よりセックスの後お金をくれるところが好きだと言う。
 私は頭に血が上り、彼女を殺してしまいたいと思った。
 私は持っていたナイフで、彼女を刺した。
 彼女はフニャフニャと倒れ、死んでしまった。
 彼女を殺した後、我に返った私は夢以外に彼女と一度も肉体関係を持った事がないし、後輩の館長は数年前からEDになりセックス出来ないと嘆いていた事を思い出した。
 私はしまったと思った。
 彼女に騙されたのだ。彼女は何時もこういう突拍子もない悪い冗談を真顔で言う女の子だったのである。
 私はこれで、自分の人生は終わったと思った。
 私は自分の頸動脈を切った。
 大量の血がブワッと部屋中に飛び散った。
 私は彼女の死体の上に、重なる様に倒れて、死んだ。
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