地球植民地計画

文字数 2,020文字

 ニンプとワタシが知り合ったのは、ワタシが市立図書館で臨時職員として働いていた時だった。ニンプはカウンターに来て、
「地球に関する現状を調べたいんですが、何処の棚に行けばありますか?」
 と云った。
「地球に関する現状? もっと具体的に、如何いった事でしょうか?」
 とワタシが聞き返すと、
「実は地球を我々スローザ星の植民地にする計画があるんですが、その下調べをしているので、それに関する資料になるものを探しているんです」
 とニンプが云った。
 もちろん最初は、くだらん冗談を云う利用者だと思い、適当に地球の歴史に関する本を数冊選んで差し出すと、
「これでいいから、貸して下さい」
 と云う。ワタシはニンプが利用者登録をしていないと云うので、住所や名前等を書いてもらう為に申請書を渡した。
「さっきも云った様に、自分はスローザ星から偵察部隊の一員として派遣されて来ているので、住所はないし、名前もないんです。取り敢えずニンプとでも呼んで下さい」
 とニンプが云った。
 ワタシは本市に住民票のない者は利用者登録も出来ないし、本の貸し出しが出来ない旨を説明すると、
「じゃあ、館内で読むからかまいません」
 と云い、その日から、毎日図書館にやって来て、本を読んではメモっている。
 ワタシはニンプが如何見ても地球人にしか見えないし、おまけに日本人にしか見えないし、ニンプが悪い冗談を云っているのか、若しくは頭のおかしい奴かもしれないと思い、あまり関りを持たない様にしていた。
 ワタシの様な臨時職員でも、カウンター業務をしている以上、レファレンスサービスはしなければならず、利用者から本に関する事などを聞かれると、答えなければいけない。
 一応ワタシは大学時代に図書館司書の資格を取っていたので、まるっきりの素人という訳でもないし、学生時代から本はよく読んできており、利用者からの質問には、正職員以上にテキパキと対応する事が出来た。併しニンプは、毎日カウンターにやって来て、
「これは如何いう意味?」
「ここに書いてある場所は何処にあるの?」
「地球で今問題になっている事とか教えてくれない?」
「今流行っているものは何?」
 とか、毎日毎日くどいほど聞いてくるので、正直うっとうしい。
 カウンターにはワタシの他にも年配の正職員の司書が二人いるのだが、ニンプはワタシにしか話しかけない。ワタシは二十四歳で、童顔でおまけに童貞であり、よく学生のアルバイトと間違われるくらいだ。同い年くらいに見えるニンプからしたら、年配のオバさん司書よりワタシの方が同性でもあり、話しやすいのかもしれない。ワタシは今ニンプが男であると云ったが、ひょっとしたら男の子に見える女の子かもしれないし、そもそもスローザ星人なるものに性別があるのかどうかも知らない。
 やがて、ワタシとニンプは気安く話あえる間柄になった。時々は閉館後に、
「ちょっと一杯如何ですか?」
 とニンプに誘われて、居酒屋で飲む事もある。
 ニンプは酒を飲むと、更に饒舌になり、ワタシに次から次へと質問をする。
「オダギリさんは、今の日本について如何思う?」
「別に、特に何も思わない」
「だけど、このままだと、日本は中国の植民地になるし、今でもアメリカの植民地みたいなものじゃない」
「そうかな」
「いや、オダギリさんは、図書館に勤めているんだから、もっともっと本を読んで勉強しなきゃダメだよ」
「オレ、あんまり、政治的な事に関心ないんだ」
「だから、それがいけないんだよ」
「だって、オレ一人で如何にかなる問題でもないしね」
「そうやって、みんなが政治を傍観している間に、日本はアメリカや中国に浸食されていってるんだよ」
「如何でもいいけど、ニンプさんは、最初地球を自分の星の植民地にする計画があるから、図書館で地球について調べるって云ってたじゃない?」
「そうだよ」
「だったらさぁ、日本が中国とかの植民地になるとかならないとか、そんな事、部分的な事だから、それこそ如何でもいいんじゃないの」
「いや、それがさぁ、スローザ星の仲間に地球の現状を報告したら、そんな国際金融資本家が支配している星なんてつまらないから、計画は白紙にして帰って来いって云われているんだよ」
「あぁそう、地球はあなた達の星から見ても魅力のない星になっちゃってるんだ」
「そうそう」
「まぁ、そうだよね、確かに良い思いをしてるのは一部の富裕層だし、我々貧乏人は何時まで経っても貧乏人のままだしね、まぁ、構造改革とか規制緩和とか何とかかんとかやってきても、結局は貧乏人は貧乏人のまま変わらないしね」
「だよね、今の日本なんて貧富の格差がひどいじゃん、非正規で働く若者は結婚しても子どもすら産めないなんて、メチャクチャじゃん」
「確かにね、そう思えば、我々若もんが、もっともっと今の現状に怒らなければダメなんだよね」
「そうだよ」
 ワタシとニンプは現状を憂いてグダグダ云いながら、チビチビと焼酎を飲み続けた。
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