女の子

文字数 994文字

 私が小学三年の晩秋の頃、同い年くらいの見知らぬ女の子に誘われて山に登った。
 女の子は、時代劇に出てくるような赤い着物を着ている。
 女の子がとても可愛いかったので、興味本位について行ったのだ。
 女の子が速足で山を登るので、私は遅れないようについて行った。
 山の中腹まで登った頃、太陽が山に半分沈みかけていた。陽が沈みかけた向かいの山に、数羽のカラスが「カァーカァー」と鳴いて飛んで行く。
 私は家から遠い所で遊んでいる時に、夕方カラスが山に鳴きながら飛んで行くのを見ると、何故だか急に家が恋しくなる。
 今もカラスの鳴き声を聞きながら、私はここまで来たことを後悔し始めた。
「ちょっと、どこまで行くの?」
 私がそう言うと、女の子は振り返らず、「あっち」と山の頂上を指さした。
「もう陽が沈みかけているよ、そろそろお家に返らないと暗くなってしまうよ」
 私が心細さから、半泣きの顔で言うも、女の子はただ前方を指さして、速足で歩き続ける。
 山道は上がるにつれて、段々と道幅も狭くなり、やがて獣道のようになってきた。
 道は整備されておらず、やぶに覆われ、こぶし大の石がゴロゴロと転がっており、歩くのが難しい。
 私は女の子に離されないように、必死で後をついて行く。
 まわりがすっかり暗くなり、山の上には驚くほど大きな満月が出ている。
 しかし大きな月が出ている割には、辺りが無暗に暗かった。不気味なほど静かである。
 よそ見をしていると、女の子の赤い着物が見えなくなるので、全神経を女の子の後ろ姿に注いだ。
 私はカヤや伸びた枝で何度も腕を擦り、腕からは血が流れていたが、そんなことより女の子をここで見失ったら、大変なことになると思い、痛いことも感じなかった。
 しばらくすると、何かの音が聞こえ始めた。
 歩き進むうちに、段々とその音が大きくなって来る。
 やがて、やぶのトンネルを抜けると、前方に古びたお宮が現れた。
 その横に池があり、そこには滝が流れ落ちている。
 お宮は漆黒の闇の中、不気味に存在している。
 池に落ちる滝の飛沫だけが暗闇に白く浮かび上がっていた。
 女の子はお宮の後ろにまわって行った。
 夜お宮に来たことは、初めてだったので、お宮の後ろに行けば、何かが出そうで怖かった。
 私は恐る恐るお宮の後ろにまわった。
 しかし女の子の姿は、どこにも見当たらない。
 そこには、小さな石を重ねた墓があるだけである。
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