愚かな市長

文字数 1,277文字

 私は市長室で執務中である。
 市長になる前、私はプータローだった。プータローから市長になるなんて、こんな美味しい話はない。
 私は生まれ持った詐欺師のような口のうまさで、人をだますことなんて朝飯前だし、要領はすこぶる良いし、世渡り上手は私の代名詞と言っても過言ではない。
 人に尊敬されるような高尚な人格などカケラもなく、中身は軽薄で薄っぺらで目立ちたがり屋でかっことりの単なる阿保である。しかも、超超超女好きでおまけに変態性欲者で下半身の人格は下の下の下の下である。
 事業をしている女好きで悪人の親戚から、
「市長なんて、わかりました、前向きに検討します、と言っておけば何とかなるし、そんなもん誰にでも出来るんだから、口のうまいお前やったら出来んことはない。オレが選挙資金は都合付けてやるから、出馬せよ」
 と促されて、出馬したら当選した。
 私は親戚のアドバイス通り、市民からの要望等に、
「わかりました、前向きに検討します」
 と答え、議会でも、
「わかりました、前向きに検討します」
 と馬鹿の一つ覚えみたいに、答弁をした。
 市民や議会から、
「市長にやる気が感じられん。あんな市長じゃ市はよくならん」
 と批判を浴びても、余程の罪を犯さない限り、失職することはない。
 私はこれ程、美味しい仕事はないと感じた。仕事は部下が全部やってくれる。そのくせ、給料は誰よりも一番高い。
 本気になって市を変えるなんて、そんな無駄なことを真剣に考えるわけがないし、考えている振りをしていればそれで済むのだ。後はとにかくイベント等に顔を出しては、一生懸命やっている振りの、パフォーマンスに精を出す。手を振って、握手をして、その場で話を合わせて、笑っていればそれでいいのである。適当。適当。すべては適当である。
 私のことをよく知らない市民からは、「市長」「市長」と、何か偉い人のような扱いを受け、こんな気持ちのいいことはない。
 飲み屋に行っても、「市長さーん」「市長さーん」と若いお姉ちゃん達から持ち上げられる。ただし、酔っぱらってお姉ちゃんの胸など間違いにでも触ったら問題になるから、そこだけは要注意である。
 部下が何か新しいことを実施すると、
「市長の、コメントをお願いします」
 とマスコミが寄ってくる。
 私は馬鹿で単細胞だから、すぐに天狗になってしまった。
 任期の四年が近づいていた頃、調子に乗って、テレビのインタビューで、
「誰が市長になっても変わらないという市民に、そんなことはないと、声を大にして言いたい」
 と、つい余計なことを言ってしまった。
 巨乳の女子アナが好みのタイプで、ド助平の本性が顔を出し、つい女子アナの前で、カッコつけてしまったのである。
「四年の任期が近づいていますが、市長がこれまで、市をどんな風に変えたのか、実績等があれば、具体的に教えていただけますか?」
 巨乳アナのインタビューに答えようとして、市長は当惑した。
 市長としての実績など皆無だから、答えようがない。
「わかりました。その質問に答えられるように、前向きに検討します」
 愚かな市長がキッパリと言った。

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