戦車の女

文字数 1,106文字

 朝、目が覚めると、アパートの前に小型の戦車が止まっていた。
 何事かと思い外に出ると、戦車の中から水着姿の女が出て来た。しかも超ハイレグだ。
 女は戦車から降りると、自分の前にやって来て、冷えたビールを飲ませてくれと言う。
 たしかに今は真夏で、朝から熱いが、若いきれいな水着姿の女が、朝っぱらからビールを飲みたいなんてどういうことかと思ったが、ウインクした顔が可愛くて家の中に入れた。
 自分は一人暮らしで、今日はたまたま盆休みで家にいたのである。
 女はつかつかと部屋の中に入ると、勝手に冷蔵庫を開けて、缶ビールを立ったまま飲んだ。
 五百ミリリットルの缶ビールを一気飲みし、続いて二本目を飲もうとしている。
 女は冷蔵庫の中を覗いて、何かつまみになりそうなものを物色している。
 あいにく豚肉とウインナーと卵しか置いてなかったので、女はとりあえずウインナーを生のまま食べ、それを食べ終えると、今度は豚肉を生のまま食べている。
 それもなくなると卵を割り、次々と飲み込んだ。
 缶ビールを三本飲むと、次に紙パックの焼酎を、パックのまま飲んでいる。
 まだ飲み始めて三十分も経っていないのに、あっという間に、全てのものを飲み食べ尽くした。
 女はやっと落ち着いた様子で、
「ところでワタシ、ツウテンカクに行きたいんだけど、道に迷ってわからなくなったの、道順教えてくれない?」
 と言う。
「通天閣って大阪だよね、ここは東京だけど、ずいぶんと間違っているよ」
 と自分が言うと、
「そんなはずないよ、マイ戦車に備え付けてあるナビの通りに来たのよ」
 と女が言う。
「キミは一体どこから来たの?」
 と聞くと、
「イスラエルからだけど」
 と女が何食わぬ顔で言う。
「イスラエルから戦車で来たの?」
 と自分が驚いて言うと、
「そうだけど、何か?」
 と又も女が涼しい顔で言う。
「だってイスラエルから戦車で来るって、時間はかかるだろうし、だいいち海はどうやって渡ったの?」
 と自分が訝し気に聞くと、
「マイ戦車ね、海でも山でもへっちゃらなのよ」
 と女がしれっと言う。
「それにしても、どうして戦車なの?」
 と聞くと、
「私の趣味に、ケチつけるつもり!」
 と女が自分を睨みつけた。
「いやいや別に、どうでもいいけどね」
 自分は何が何やらわからなくなった。
 多分これは夢なんだろうと思う。
「わかったわ、じゃあアナタ、通天閣まで一緒に行ってくれない?」
 と女が言うので、
「無茶苦茶言うなよ!」
 と今度は自分が女に、大きな声で言う。
「ちぇ、けち臭い男ね! いいわよ、別の男に当たるから」
 と捨て台詞を吐き、女は出て行った。
 その後、女の乗った戦車は、宇宙船の様に空を飛んで行った。
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