愛人のパンダ

文字数 773文字

 私は熊のような愛人のパンダと、真夜中にドライブをしている。
 闇の中の道はどこまでも真っ直ぐであり、両側には暗い影のような山が迫っている。
 助手席に乗っているパンダが、ラジオから流れているテレサ・テンの「愛人」を、中国語で口ずさんでいる。
 私には妻子がある。
 私とパンダは、今日が初めてのデートである。
 パンダにキスをしようとすると、
「今日あったばかりだから、キスはまだ早いわ」
 と言って抵抗した。
「手なら、握ってあげる」
 と、私の左手をパンダの大きな右手が握った。
 パンダの手はかたく冷たかった。
 とても寒い日だったので、車内の暖房を強めにしていた。
 暖房が効きすぎたのか、パンダはウトウトし始めた。
 しばらくすると、「ブブブー」「ブブブー」「ブブブブー」とパンダが大きな音を立てながらオナラをした。
 音の大きさで車が少し震動した。
 パンダのオナラはとても臭かった。
 いつまでたってもパンダのオナラが止まらない。
 私は息苦しくなって窓を開けた。
 そのうち車内が冷たくなると、眠っていたパンダが目を覚ました。
「ごめんなさい、ワタシ眠ってしまったのね?」
「いいよ、別に。ちょっと眠たくなったから、目を覚まそうと、窓を開けただけだから」
 窓を閉めて車内が暖かくなると、またパンダは眠りだした。
 眠るとパンダはまた、「ブブブー」「ブブブー」「ブブブブー」と大きな音の臭いオナラをした。
 私は息苦しいのを我慢して、しばらく運転していた。
 私は臭いオナラをするパンダとの付き合いは、今日が最初で最後にしようと思った。
 時間がたち、オナラの匂いにも少しだけ慣れてくると、今度は睡魔に襲われ始めた。
 眠気覚ましにタバコを吸おうと、ポケットから「ハイライト」を取り出した。
 百円ライターで火をつけると、大きな爆発音がして、パンダを乗せた私の車が破裂してしまった。
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