かくれんぼ

文字数 891文字

 私は神社の境内で、友達とかくれんぼをしている。
 私が鬼の番である。
 後ろを向いて、決められた数を、ゆっくり大きな声で数え、
「もういいかい?」
 と私が云う。
「まぁだだよ」
 とケンタ君の声がした。
 またしばらくして、
「もういいかい?」
 と私が聞く。
「まぁだだよ」
 とユウジ君の声。
「もういいかい?」
 と再度私が云うと、
「もういいよ」
 とタツヤ君の声が聞こえた。
 私は振り返って、みんなを捜しに行く。
 師走の夕方だから、五時過ぎであるが、すでに日は暮れかけている。
 私は急いで友達三人を捜した。
 一人目のケンタ君をすぐに見つけた。二人目のユウジ君も簡単に見つけることが出来た。
 何回も繰り返し同じ場所でやっているため、自然に隠れる場所がわかってくる。
 しかし三人目のタツヤ君が見つからない。
 もう日が暮れてしまい真っ暗になっていた。
「タツヤ君、もうかくれんぼは、終わりにしようよー」
 と私が叫んでも、タツヤ君は出てこない。
 タツヤ君は私の親友で、母親からも、
「イチロウとタツヤ君は、本当に気が合うし双子みたいね」
 とよく云われた。
「何云ってるんだよ、タツヤは、去年死んだじゃないか?」
 とケンタ君が云ったので、
「うそだぁ、さっきまでいたよ」
 と私が云う。
「うそつくな、タツヤなんていなかったよ」
 と真面目な顔で、ユウジ君も云った。
 私は何か腑に落ちない気持ちのまま、みんなと別れた。
 家に帰って、このことを母親に云うと、
「いやだ、イチロウ。タツヤ君は去年交通事故で死んで、イチロウもクラスのみんなと一緒に、お葬式行ったじゃない」
 と云われた。
 私が神社で一緒にかくれんぼをしていたと何度も云うと、最初笑っていた母親が、段々と気味悪がり出した。
「イチロウ、キツネにつままれたんじゃない?」
 と母親が云うので、
「本当にいたんだもん」
 と私が泣きそうな顔で話すと、
「キャー!」
 と母親が私を見て叫んだ。
「どうしたの、お母さん?」
 と私が聞くと、
「タ、タ、タツヤ君……」
 母親が震える声で私を指さしながら云う。
 私が訝し気に鏡を覗くと、私はタツヤ君になっていた。
 私の中にタツヤ君が隠れている。

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