サカモトリョウマ

文字数 756文字

 私は山道を歩いている。
 さっきから背後に人の気配を感じている。私の命を狙う刺客のようである。
 紋付き羽織袴姿に大小二刀を帯同していることから、どうやら私は武士のようだ。しかし、どういうわけかブーツを履いている。
 私は鼻糞をほじりながら、歩いている。時々大きな音のオナラもする。
 私はかなりの自由人らしい。
 立小便は頻繁にするし、他人の目につくとこで、平気で野糞もした。
 私は剣の達人らしく、目の前のハエを刀で切ることなど朝飯前である。
 刺客は早朝から、私の後をつけている。
 一人ではない。おそらく三人はいると思われる。
 私は昼前に宿場町に着いた。
 人混みに紛れた時に、私は駆けだした。しばらく走り、家と家の隙間に入り、物影に隠れ、追手の様子を覗った。
 追手は、四人だった。
 新撰組の、沖田総司、永倉新八、原田左之助と土佐藩の武市半平太だった。
(アギんどうしておるがな? アギも新撰組に入ったがじゃろうか? まぁようわからんきぃ、どうやちええぜよ)私はそう思って深く考えないことにした。
 新撰組に追われているということは、私は長州藩士かもしれない。が、はっきりしたことはわからない。
 時代が幕末ということは何となくわかる。
 私は糞がしたくなったので、物陰に隠れながら野糞をした。自分の糞の匂いに吐き気を催した。
 私がそのまま物陰に隠れていると、女が近づいてきて、
「こっちにいらっしゃい」
 と私を家の中に入れてくれた。
 女に礼を言うと、
「ウチは、リョウマさんのファンどすえドス」
 と妙な京言葉で言う。
 私はどうやらサカモトリョウマになっているらしい。
 女がいつまでもここにいてもいいと言うので、私はこの宿でしばらく働くことにした。
 女がタイプだったので一緒になった。
 この宿で暮らし始めて、もうかれこれ三年になる。
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