三回忌

　久しぶりやにゃ。……
　ほんとう、久しぶりね。……
　オマエ、少し痩せたがやないか？　……
　いいえ、全然変わっちょらんよ。アナタこそ痩せたがやない？　……で、今どうしようが？　
　オマエに苦労ばっかりかけたけん、今は静かに懺悔の日々よや。……オマエと一緒になって、何年かここで暮らしよったなんて、何か信じられんにゃ。まぁここでは、楽しいことなかったけんどね……
　この家に来ると嫌なこと思い出して、ワタシ不安になるがよ……
　ほんとうにあの頃のオレはどうかしちょった。……精神的におかしかったがかもしれん。
　そうよワタシ、何度も死のうと思うたがやけんね……
　仕事や借金のストレスでギリギリの精神状態やったけん、現実から逃げるため酒飲むしかなかった。暴れてオマエに散々迷惑かけたけんどオレはオレで辛かったがよや。毎日崖っぷちに立たされちょう感じやったし……
　アナタがお酒飲んで帰って来るがんわかると、二人の子どもを連れてよく車の中で眠ったがよ……
　今から考えても、あの頃のオレはほんまに狂うちょったにゃ……
　ほんとうよ、泥酔して眠りようアナタを何度殺そう思うたかしれんもん……


　子どもらにもずいぶん嫌な思いをさせて申し訳なかったにゃ……
　けんどイチロウもジロウも、今は結婚して幸せそうに暮らしようみたいやけん、ホッとするわね。
　あいつらオレとちごうて酒癖悪ないみたいやけん、よかったよ……
　ほんとう、アナタに似んでよかったちや。……それにあの子ら優しいけん、アナタみたいに口汚く嫁を罵ったりせんろうしね。
　あぁ、どうしてオレはあんながやったろう。……オレが精神的に弱いけんあんな風になったがやろうけんど……親に八千万の借金かるわされて、ずっと苦しめられ続けて、生き地獄味おうて、楽しいことらなんちゃなかったけん、酒飲んで憂さ晴らすしかなかったし……そんで酒飲むと普段の鬱憤が堰をきったように爆発して知らん間に酔うて、結果皆に迷惑かけてしもうて、ほんとうにバカやった……
　もう止めよう、あの頃のこと思い出したら、泣きたくなるけん……
　それにしたち、この家誰が住みようか知らんけんど、人が住みよう感じがまるでせんがは、どういう訳やろう？　……
　たしかに、生活しよう感じはあんまりせんけんど、よく掃除もされちょうし、その下に活けちょう花見ると、ちゃんと暮らしようがは間違いないみたいよ。


　ところでアナタ、あの子らのこと少しでも知っちょうが？　……
　いや、もう三年も経つと出不精になってね、あいつらを見に行くこともようせんなったね……
　ワタシは物凄く気になるがやけんど、突然行くとあの子らんびっくりするろう思うて、遠慮しようがよ。
　そりゃそうよにゃ……
　アナタともこうやって会うが三年振りやけんど、会うまでは話したいこと一杯あったがに、いざ会うと案外話せんもんやね。
　そうやにゃ、たしかに何を話してええかわからん。
　この家でお父さんお爺ちゃんお婆ちゃんのお葬式したがよね。あのときも大変やったちや、ワタシおばさんらにずいぶん苛められたし、お葬式のたんびに嫌な思いさせられて、辛かったちや……
　それはほんまにすまらった。やけんおふくろのときは、オマエに嫌な思いさせたくなかったけん、家族葬にしたがよや。おふくろのときは、もめごともなく穏やかにやれたやいか……
　そうやねぇ、会場も葬儀屋でやれたし、ゆっくりお義母さんを偲べたし……
　おばたちや性格の悪いあの親戚を呼ばらったけん、よかったがやろうね。あれらんくると、食べることばっかりに煩くて、自分らは少しも手伝いもせんと喋るばっかりで、そのくせあれせぇこれせぇと指図しやがって、ほんまろくなもんやない。
　ほんとうね……


　それにしても、あいつらは親のことなんとも思うちょらんがやろうかねぇ。
　今の子はそんなもんちや。やけん子どもらを悪く思うたらいかん、……あの子らの家庭が幸せやったら、それでええがよ。
　そんなもんかにゃ……
　時代が変わったがやけん、それを自分らのときはこうやったゆうて、おしつけたらいかんちや。ワタシは、子どもらが幸せやったらそれでええが。ワタシらのこと別に偲んでくれらっても、あの子らが幸せやったらそれで十分。
　たしかに、オレらぁが嫌なことを子どもらに押しつけたらいかなぁにや。
　そうよそうよ。
　しかし、オレらぁがこうやって再会するがも、ここしかないなった感じやにゃ……
　そうやねぇ、長く暮らしよったアパートも、あのときの火事でないなってしもうたけんね。人手に渡っても、やっぱしこの家に帰るしかないか……
　そうやねぇ……
　まぁけんど、今日こうやって会えてよかったよ。今度会えるとしたら、四年後になるかにゃ？　
　さあ、どうやろうかねぇ？　……また会える日がくるとええけんどねぇ。
　そうやにゃ。……それじゃ、もうそろそろいくけん。
　そうね。……じゃあ、また。