文字数 2,000文字

「話があるんだけど、聞いてくれないか……」
 Aは大学の児童文学サークル仲間で、仲の良いBを喫茶店に誘った。
「何だよ、話って?」
 Bがコーヒーを飲みながら言う。
「実はH子の事なんだけどね」
 H子も同じ児童文学サークルに所属している。AはH子と付き合い始めて半年になる。
「H子と何かあったのか?」
「いや、別に……」
「じゃあ、何だよ? H子とはうまくいってるんだろう? あいつは美人で静かで、あんな良い子はいないよ? 本当はオレが彼女にしたいくらいだったけど、お前がどうしても付き合いたいって言うから、オレは諦めて紹介したんだぜ、だからH子の事は大事にしろよな」
 Aが児童文学サークルに入ったのはBの誘いだった。そこにH子がいたのだが、BとH子は同じ県の出身という事で仲が良かった。
 AはH子を初めて見た時から、静かで品のある彼女に一目惚れをした。
「何があったんだよ?」
 コーヒーを飲みながら押し黙っているAに訝し気にBが聞く。
「まぁ、何ていうか……、大した事じゃないんだけどね……」
「だから何なんだよ? 早く言えよ」
「それがね、ちょっとオマエに聞いてもらって、その結果によっては、H子と別れるかどうか考えてるんだよ」
「別れる? 喧嘩でもしたのか?」
「いやぁ、別にバカバカしい事なんだけどね、……オマエならどう思うか聞いてみたいんだよ」
「ナニナニ、深刻な話かよ?」
「そうでもないんだけどね、ちょっと言いにくくてね」
「わかった、お前が風俗に通っているのがバレたとか? お前、女好きだからなぁ」
「イヤイヤイヤ、そんな事じゃあないんだよ」
「じゃあ何だよ? もったいぶらずに早く言えよ」
「それがね、妙に言いにくくてな……」
「わかった、お前がH子に変態プレイを強要して、愛想突かされたんだろう? お前まさかH子のケツの穴に入れようとしたんじゃないだろうな?」
「バカ言うなよ、まだオレ達はキスもしてないんだぞ、嘘みたいだけど本当なんだよ。H子があまりに清純すぎて迂闊に手が出せなくてよ、イヤイヤそうやって笑うけど、本当なんだよ、まだキスもしてないんだって……」
「うそこけぇ! まぁいいや、そういう事にしておいてやるけど……、で、H子の話って何なんだよ」
「実はな、五日前にH子とカラオケに行ったんだよ、で、良い調子でオレが唄っていた時に、何やらくっさい匂いがしてきてな。……それが、今までに嗅いだ事のないようなくっさい匂いでな、魚の腐った匂いをまだ臭くしたような匂いでね。……暫く我慢していたけど、その匂いが中々のかなくてな。ほら、カラオケボックスって密閉空間だろう、匂いがずっと残るんだよ。で、その時ふっと思ったんだよ。えっ、もしかしてこれって屁の匂いかもってね。しかし、カラオケボックスの中にはオレとH子しかいないわけで、じゃあオレが屁をこいていないという事はこのくっさい匂いはH子の屁の匂いかと思ってね。恐る恐るH子を見たら、涼しい顔して次に唄う歌の選曲してるんだよ。オレも信じがたかったけど、まぁ彼女も人間だし、屁だってこくよなって、その場は知らん顔してトイレに行く振りして、外に逃げたんだけどね」
「なーんだよ、話って、そんな事かよ、バカバカしい」
「オマエはそうやって笑うけどな、まだキスもした事のない、清純そのものの彼女のくっさい屁をかぐって気分は、中々シビアなもんだぜ」
「屁ぐらい許してやれよ、ちっちゃい男だな、お前って」
「いや、だから、一回は我慢したんだよ……」
「はぁ? って事は、又、H子のやつ屁ぇこいたんか?」
「あぁ、信じられないけどね。一発目から三十分程して匂いも消え、屁の事も忘れかけた頃に又魚の腐ったような例のくっさい匂いがしてな、オレもさすがにムッとしたから、あからさまに換気扇回してやったんだよ」
「笑っちゃあいけないけど、おっかしいな。で、H子の反応はどうだったんだよ?」
「相変わらず涼しい顔して、選曲していたね」
「まぁ、H子の腹の調子でも悪かったんだろうよ、きっと。だから、屁ぐらいな事でそんなに怒るなよ」
「いや、オレもね、彼女が屁をこいた事で腹立てているわけじゃないんだよ、別に。彼女のキャラなら『オナラしたら以外と臭くて、ゴメンネ』なんて笑って言えないのはわかるから、知らんふりしてるのは、まぁ許すよ。しかしね……」
「しかしって、何だよ?」
「いや、オレもさ、彼女が屁ぇこいて気まずいだろうから、この際オレも屁ぇこいて彼女の気まずさを緩和してやろうと思ってね、こいたんだよ、屁を。そしたらその屁の音が、ブリブリってうんこが一緒になって出るような極めて下品な音がしてな、まぁ実際後でパンツ見たら若干糞がついていたんだけどね。オレはそれで彼女の気分がいくらかでもほぐれたと思って、彼女の方を笑ってみたら、H子のヤツ怒って出て行ったんだよ。それ以来携帯にかけても出ないしよ、オマエ、どう思う?」
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