口裂け女の犬

文字数 801文字

 夕方家に帰ってくると、いつも酒を飲んで酔っぱらっている、失業中の男の姿が見当たらない。男の連れ合いは数年前に死んでいる。
 夜になって、近所に住む男の妹になるオバがやって来て、
「兄さんは隣のおばさんと何処かへ逃げて行ったから、今晩から私の家で暮らしな」
 と怒ったような顔で云う。
 その日から、オバ家族に酷い扱いを受けた。虐待に耐えられず、数カ月たった頃、オバの家を飛び出した。
 しばらく野宿していたが、空腹に耐えられなくなり、留守中の家に忍び込んだ。
 何件目かに侵入したとき、その家に住む口裂け女に見つかってしまった。
「オマエは捨てられたんだね。今日から私が可愛がってあげるよ」
 と口裂け女に云われた。
 口裂け女の家で、何から何まで云うことを聞かなければいけなかった。口裂け女を怒らすと、とんでもなく恐ろしいということを、ここ数日暮らして、十分に知ったからである。
 口裂け女は何でも食べる。庭にいるヘビやカエルやクモやイモリやバッタやミミズ等、とにかく何でも食べる。
 その後口裂け女とまぐわった。口裂け女は異常に性欲が強く、一晩もセックスせずに眠ることが出来ない。
 元々体力に自信はあるが、複数回強要されるセックスに、いつもヘトヘトになり、死んだように眠る。これが毎晩続くと最早拷問でしかない。セックスを拒むと食事は与えられない。
 やがて子どもが出来た。生まれたばかりの化け物のような赤子までも口裂け女は食べてしまった。

 ある日、物置を覗いて愕然とした。そこには白骨化した死体が、山のように積まれている。用無しになったものの死骸だ。このままここで暮らしていると、やがてこうなるのだろうと思った。
 一度、口裂け女が眠っている間に家を脱出しようとした。口裂け女は、異常に敏感であり、僅かの物音や気配にも、すぐに気が付き目を覚ます。何度か試みたが、いつも失敗した。
 とうとう首輪を付けられて、柱にくくられた。

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