地球を救う使命

文字数 1,855文字

 私はコンクリートの天井、壁、床に囲まれた人ひとりがやっと横になれるくらいの長方形の部屋の中に監禁されている。どうして監禁されているのか、全くわからない。
 上の方に小さな通気口らしき穴がある。しばらくすると、その穴から僅かに水が滴り落ちた。水は一定の間隔で落ちてくる。その水を口に含みながら、何とか飢えを凌いだ。
 部屋の中は暗く、朝昼晩の区別がつかない。監禁されて何日目になるのかもわからない。
 私は囚人服のようなものを着ている。囚人服には「SS95489687」と記入されている。この番号が何を意味しているのかは、さっぱりわからない。意味などはなく、何かの通し番号のようなものなのかもしれない。
 それにしても私には、ここに至るまでの過程が一切思い出せない。それどころか、自分の名前も、年齢も、住所も、家族のことも、あるいは職場のことも、全てが記憶にない。
 私は水しか飲めないため、みるみるうちに痩せていった。肋骨が浮き出る程痩せてしまったが、それ以上は痩せなかった。
 そのうち私は、動くこともままならなくなってきた。
 ポツポツ落ちてくる水が、床より五センチ程溜まっており、水分を採ることは出来る。水が溜まったことにより、そこに微生物が発生した。微生物がどういうわけかオタマジャクシになり、やがてカエルになった。
 カエルは、すぐに大きくなった。水も今では大分溜まり、十センチ程になった。
 やがて話が出来る様になったカエルが、
「いいか、このままここにいたら、キミは水攻めに遭い死んでしまう」と言う。
「水がそんなに溜まるまで、私は生きてはいないよ」と言うと、
「そんな弱気でどうする。キミを監禁した奴らに復讐したいとは、思わないのか?」とカエルが言うので、
「もちろんしたいよ。しかし、誰が犯人かもわからないのじゃ、復讐のしようもないじゃないか」と私が言うと、
「諦めるのはまだ早い。オレを、あの通気口へ投げてくれ」とカエルが言った。
 これ以上カエルが太ると、通気口の穴には入れなくなる。自力で通気口にジャンプするには、まだ脚力が不足している。
 私はふらつく体で立ち上がり、カエルを通気口めがけて投げた。
 何度かトライするうちに、穴にカエルを入れることが出来た。
「きっと迎えに来るから、死んだらダメだよ」とカエルは言い、通気口の奥に消えていった。
 やがて、水溜りが二十センチ程になり、横になることもままならなくなり、私はずっと座っていた。
 ここに入ってから、一体どれだけの時間が経ったのだろう。そう思っていると、通気口から青大将が顔を出し、水溜りに落下した。
 私が驚いた顔をしていると、
「カエルに頼まれて、オマエを助けに来た。今からオレがまた、通気口に戻るから、オマエはオレのシッポをつかんでいろ。どんなことがあっても、離すンじゃないぞ。いいか、一緒にここから脱出するんだ」と青大将が言うので、
「だって、あんな小さな通気口に、どうやって入るんだよ?」と私が言うと、
「蛇の道は蛇っていうだろう。そこは、オレに任せておけ」と青大将が、意味不明なことを言った。
 私は棒のように真っ直ぐ伸びている青大将の頭を、通気口に入れると、シッポにしっかり捕まり、引っ張られながら、通気口に入っていった。
 すると青大将が一気に巨大化し、通気口もそれに合わせて大きくなり、私が通り抜ける大きさになった。
「蛇の道は蛇って、こういうことだったかな?」と、首をかしげながら、必死に青大将のシッポにしがみついていた。
 長い通気口から出ると、そこは核シェルターだった。
 青大将に礼を言って、
「カエルにもよろしく言っといてくれ。ところで地上に出るには、どう行ったらいいのかね?」と私が聞くと、
「地上だって? 地上なんて、核戦争のせいでとっくの昔に、住める処なんて無くなっているよ」と青大将が言うので、
「じゃあ、人間はもう存在していないのかい?」と聞くと、
「わずかに残っている奴は、オマエのように薬で記憶を消されて、コンクリートの中で死んでゆくのさ」と青大将はそう言うと、戦闘服を着た美少女に変わった。
 驚いた顔をしている私を見て、
「アナタは記憶を消されているけど、実は有能な科学者なの。アナタの記憶を蘇らせて、ワタシとアナタで、この惑星をもう一度復活させるのよ。そして二人の子供を五人作って、戦士に育てて、ワタシとアナタ合わせて七人で悪と戦うのよ、そう、黒澤明監督の『七人の侍』のようにね」と美少女が言う。
 どうやら私には、この星を救う使命があるようだ。

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