ゴキブリ

文字数 1,430文字

 私は目を覚ますと、ゴキブリになっていた。
 夢でも見ているのだろうと思い、階下に這って降り、朝食中の妹が座っているイスのところに進んで行った。
「ギャァーーー」
 と妹が叫んで、イスから飛び退いた。
 母親が私に気付き、新聞紙を丸めて叩こうとする。私は声を出そうとするが、声が出ない。母親に叩かれる前に、冷蔵庫の下に慌てて隠れた。
 新聞を読んでいた父親が、
「ケンイチはまだ起きてこないのか?」
 と母親に言ったので、
「ケンイチ、早く起きなさい」
 と二階の子ども部屋に向かって、母親が叫んだ。
 何度か呼んでも、起きてこないので、
「仕方ないわね、まったく」
 と文句を言いながら、二階に上がって行った。
「おかしいわね、ケンイチがいないのよ」
 と降りてきた母親が、訝しげに言う。
「野球部の朝練に行くって言っていたような気がする」
 と妹が適当なことを言って、私の不在の件は落着した。
 皆が出かけた後、私はお腹が空いていたので、台所の三角コーナーまで進んで行った。
 三角コーナーには、みそ汁の出しに使ったキビナゴやリンゴの皮などがあり、それを食べていると、目の前に足のやたら多い化け物が近づいてきた。何かと思ったらムカデだった。ムカデがデカいのではなく私が小さくなっているから、化け物に見えたのである。
 私はムカデが恐かったので、テーブルに移動し食パンの食べカスを食べていると、そこにアリが這ってきた。アリは私よりは小さかったので、そんなに驚かなかった。
 アリは私の食べている食パンの食べカスを食べたそうにするので、一緒に食べることにした。
 それにしても、この部屋は汚いと思った。隅っこの方は埃だらけだし、あちこちに食べかすは散らばっているし、不衛生極まりない。今までよくこんな部屋で食事をしていたなと、あらためて思った。
 それから私は退屈になったので、部屋の中を移動してみた。
 廊下を進んでいると、化け猫が日向ぼっこをしている。化け猫にしか見えないが、我が家で飼っている「ミィ」だった。
 私が「ミィ」の近くに寄って行ったら、今までうつらうつらしていたはずの「ミィ」が、前足で私を叩こうした。私はびっくりして「ミィ」に近づくのを止めた。
 次に障子の隙間から、仏壇のある和室に入った。
 仏壇にお供えしている饅頭を食べようと仏壇に近づくと、とてつもなく大きなクモが目の前に現れたので、
「ギャアアーーー」
 と絶叫して壁に這って逃げた。私は何よりもクモが苦手である。大きなクモがそこから移動しないので、壁に張り付いたまま休んでいた。
 どれくらい休んだのかわからないが、
「ギャアーーー」
 という妹の声に驚いて目を覚ました。
 妹が仏壇に供えている饅頭を、盗み食いに来たところで、私に気が付き叫んだのである。ちなみに妹はゴキブリが一番嫌いである。
 妹は台所に引き返したと思ったら、キンチョールを持ってきて、私にかけ始めた。私は慌てて仏壇の後ろに逃げた。
「ギャアアーーー」
 今度は私が叫んだ。さっきのクモがそこにいたのである。
 私が仏壇から出てきたので、妹はまた、
 「ギャアーーー」
 と叫んだ。
 私は必死になって、壁を這い天井に上がった。天井まで上がると、キンチョールは直接かからないも、部屋が白く曇るほどまいているのでやっぱり息苦しい。
 妹も苦しくなったのか、障子を閉めて出ていった。
 私は息苦しくなって目が回り、畳の上に落下して気絶していた。すると大きなクモがやって来て、私を食べてしまった。
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