ヤモリ

文字数 912文字

 私が夜中に目を覚ますと、イモリが壁を這っていた。
 いきなり殺そうとすると、
「ちょっとまってくれ。オレはヤモリだ。イモリとまちがっていないか?」
 とそいつが言う。
「イモリであろうがヤモリだろうが、そんなことはどうでもいい。ボクはキミたちのようなムシが大嫌いだし、何で他人の部屋に勝手に入ってくるんだ」
 と私が腹を立てて言うと、
「ちょっと待て、話せばわかることだ」
 と、そいつが焦って言った。
「だって、キミがヤモリだという証拠があるのか?」
 と私が言うと、
「オレの前足の指を見てくれ、五本あるだろう。イモリには四本しかないんだ。オマエがヤモリのことを知らなければ、ちょっとネットで調べればすぐわかるよ」
 とそいつが言うので、すぐにパソコンの電源を入れた。
 確かにネットで見ると、ヤモリの前足の指が五本だった。
「もっとわかりやすいのは、イモリはオナカが赤いけど、オレは赤くない」
 とそいつが言う。
「それと、イモリは漢字で井戸を守ると書くようにあいつらは基本井戸しか守らないけど、ヤモリは家を守ると書くんだよね、だからね、家を守るわれわれを殺しちゃあまずいんだよ、罰が当たるんだよね。たしかに、勝手に部屋に侵入してきたことは謝るが、オレと暮らせばお互いにメリットもあるしね」
 と、そいつが言い訳じみたことを言った。
「お互いにって、キミのメリットは何だよ?」
 と聞くと、
「そりゃあオマエに、オレの好物を食わしてもらうことさ」
 と抜け抜けと言う。
「キミの好物ってなんだ?」
 と私が聞くと、
「一番はコオロギだな」
 とそいつが言う。
「冗談はさておき、本当に頼みたいことは、実はこのマンションの303号室に、オレの彼女がペットとして飼われているんだ。だからその部屋にオレを入れてほしいんだ」
「だったら自分で入ればいいだろう?」
「このマンションで、通気口から入れるのは、この部屋しかなかったんだよ。303号室は隙間がないから入れないんだ」
 まるで私の部屋が、隙間だらけのような言い方をしたので少々むかついた。
 私は嫌だったけれど、ヤモリを飼うのはもっと嫌なので、小さな箱にヤモリを入れて、理由を書いた手紙も添えて、303号室のポストに入れた。
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