第91話

文字数 1,007文字

 今朝の夢。海辺。

 長くて幅の広い、滑走路のようなコンクリートの道。でも滑走路ではない、浅い段々がついているから。
 その道が海から上がってきて、レストランのような白い素敵な建物に着く、
 のだけど、
 せっかくの建物の中ではなくてその通路の上で、私たちは舞台の準備をしている。
 オペラらしい。

 白い建物は多角形で、屋根や壁がふくざつに飛び出たふしぎな形。

 サラのみんながいる。スドウさんもマリちゃんもいる。私がマリちゃんに
「マリちゃんのあの歌(ソロ)を聞くと、いつも泣いちゃう」
などと言っている。
 マリちゃんが『ファウスト』のジーベル役だと私は思っているのだけど、頭のどこかで、そうだっけ? と思ってもいる。だってマリちゃん以外の人たちが何の役なのかまったく思い浮かばない。
(ジーベルはヒロインのマルガレーテに片思いする若者くんで、メゾソプラノの女性が男装して演じます。)

 マリちゃんも他のみんなも、大道具小道具を作るのに忙しく、いろいろ塗ったり切ったりしている。ミヤザキさんが笑いながら
「座長(私のこと)にはあとでイクラを描いてもらうから」
と言い、みんな爆笑。
 イクラ?! 赤い小丸をえんえんと?!
『ファウスト』のどのシーンにイクラが?

 などと私がおたおたしていると、いきなり、天窓に——
 路上なのに天窓?
 ちがう、頭上に大きなモニタースクリーンがあるのだ。なぜ頭上にスクリーンが? とにかく——

 天窓に激しい波がざばっとかぶる。
 いまのは大きかったね、などとみんなで緊張する。
 高潮が来ているらしい。つぎつぎと大波がモニターをおおってくる。
 もはやイクラどころではない。

 ところが、モニターの画像がふいにとぎれ、
「しばらくお待ちください」
などと字幕が映って、故障だろうかと見ていると、係の人が、

 五十センチくらいの、模型の船の水浸しになったのを、
 私たちのいる通路のわきの溝に入れて、ひもで引っぱって、波打ちぎわへ歩いていく。
 甲板が小豆色、船体が白と紺にきれいに塗り分けられて、よくできた模型だ。

 その船の模型にミニカメラがとりつけられていて、私たちがさっきからスクリーンで見せられていた怒涛の大波の映像は、そのミニカメラにちょこっと浴びせた水の映像を拡大したものだったらしい。

 拍子抜けして、みんな黙っている。

 模型の船、粛々と引きずられていく。
 いま思うと、黙って引いていく人が、照明のヨーコさんに似ていた。

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