第75話

文字数 1,386文字

 今朝の夢。
 同窓会? しかも旅行らしい。

 広いグラウンドをひとり歩く私。
 遠くにぽつりぽつりと見える、鉄棒、ブランコ。
 ときどき小さな木造の小屋がまじっている。
 そのひとつに近づいて裏へ回ると、きゅうに天まで届くような巨大な和風旅館になって驚く。

 グラウンド全体が霧雨にけむっている。湯けむりかもしれない。

 早く着替えて夕食に行かないと。
 夕食は、映画つき。

 部屋に入るけど私、あまりに眠くて、つやのある焦げ茶のカクテルドレスに着替えたところで、ベッドに横になってうとうとしてしまう。

 そして、はっと飛び起きる。
(夢の中なのにうとうとして、はっと飛び起きる。)
 いそいで走っていくと、やっぱり映画はもう始まっていて、見覚えのあるすらりとした人、たぶん職場の同僚のデンダさん、が小声で
「最後列の2番です、T**さんの隣です」
とささやきながら、夕食のトレイにチケットをすばやく載せて渡してくれる。
(このT**さんというのがタシロさんかタナベさんか、しかも下の名前まではっきり言われて、ああ、あの人ねと納得したのに、起きてから考えたらそんな知り合いはいなかった。)

 トレイを持っていそいで中に入ると、みょうにせまい和室。
 ふすまを開けて奥のスクリーンを見ている。

 きなりの布をかけた低いソファの背もたれに小さく「2」と書いたシールが貼られていて、最後列の2番だからそこが私の席なのだけれども、体を思いきりねじってふりむかないとスクリーンが見えない場所だ。そんな。
 ソファも小さい。
 T**さん、紳士で、遅れてきた私のために立ちあがって場所をあけ、私が座るのを待ってくれている。でもソファが小さいから私が座るとT**さんが座れなくなってしまう。
 気まずいけれど、座るしかない。

 ローテーブルにトレイを置いて、きゅうくつなソファに腰を無理やり押しこむようにして座る。体をねじってふりむいてスクリーンを見ると、映っているのは何か白黒のドキュメンタリー映画らしい。
 よくわからなくて、つまらない。
 
 T**さんがきゅうに体をねじこんで座ってきて、私がびっくりして見たら、T**さんは真澄さんだった。
 ほっとする。真澄さんなら体がくっついても(むしろ)いい。
 でも真澄さんがぜんぜん私を見てくれない。知らん顔で別の女の人とお話ししている。私は、ごめんね、着替えててうたたねしちゃったのと言い訳したいのに。

 悲しくなって私、やめよう、映画も夕食も、と決めて立ちあがる。
 手つかずの料理を載せたまま、トレイを返しにいく。

 合宿のお宿や大学の学食なんかによくある大きな配膳口で、蛇口から流れっぱなしの水で食器をすすいで返すしくみ。こういうところには残飯をこそげ落として捨てるバケツがあるものだけど、そのバケツが見あたらなくて、私、うろうろする。
 配膳口のおばさんが食器を洗いながら、そっちだよ、と指さして教えてくれる。
 この台所は大忙し。かわいらしいアルバイトのお嬢さんが、おいしそうなミックスジュースを作ってはせっせと運んでいる。
(いいな、あのジュースだけでも飲めばよかった)
と思うけれど、私のトレイにはなかった。

 トレイを返して、食堂をあとにする。私ひとり。
 きれいな服に着替えたの、意味なかった。

 映画はまだ続いている。たぶん。
 みんなまだ中にいる。
 真澄さんもまだ中にいる。たぶん……

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