5. 一人目の恩人 ― 大将ジェラール
文字数 1,879文字
頭に誰か大人の笑い声が響いてきて、
ジェラールは、レドリーのその怒りの顔に、穏やかな微笑を振り注いだ。
「お前はこれから私と共に南へゆく。バラローマへ向かわねばならんのだ。だが、かの地まで付き合うことはない。途中で別れよう。」
ジェラールは立ち上がって首をめぐらし、泣きわめく子供たちを見た。そして再び部隊長に視線を戻して、「総督はどこにいる。」ときいた。
「はっ、すでに帰国されましたが。」
「帰国しただと? 事態の収拾も満足にせずにか。」
気になって来てみれば・・・。ジェラールはまた周囲を見渡し、胸中でそう吐き
「指示書は誰が持っている。総督か。」
「いえ、私が。」
部隊長は、内ポケットから取り出したそれを手渡した。
ジェラールはその書類に目を通しながら、「使いの者は送ったのか。」
「いえ・・・。」
「なぜ。
「総督が・・・放っておけと。」
「呆れた男だ・・・。隣町の役場へすみやかに連絡しに行け。総督の命に背いた責任の一切は、私が負う。」そしてジェラールは怒りをこめてつぶやいた。「それどころか、国へ戻ったら会議が必要だ。ヤツを裁判にかけてやる。」と。
そしてそれを、部隊長はそばで確かに聞き取った。
「私は、その隣町レス・アロードの
ジェラールが去ろうとしてあぶみに足をかけた時、部隊長があわてて身を乗り出してきた。
「閣下、その・・・町を焼き払えとの命令を受けておりますが。」
「なんだと。」
確かに、この
少し馬を歩かせて兵士たちに近づいたジェラールは、さらに気になって部隊長に問う。
「ほかには何を聞いている。」
「は、食料を調達し、まだ隠れている者は皆殺しだ・・・と。」
「なるほど。」
ジェラールは顔をしかめた。ダルレイは、単にまだ潜んでいる者たちを焼き殺したいだけなのだと
それからジェラールは、運河にかかる
「では、ほかにもまだ部下が残っているのだな。今は民家を荒らしに行っている最中だというわけか。」
「はい。歩兵の半数が。」
「止めさせろ。食料は、運河沿いの公共施設に集めよ。跳ね橋のそばにある建物だ。通ってきただろう。火を放つのは、残された町民たちをそこへ避難させたのちにだ。だが、一日待て。それが済んだら、何も取らずにさっさと引き上げるがいい。それに必要のない者は、今すぐに帰国させろ。総督に報告するなら、全て私に命じられたと伝えよ。それと、私が直接話をしたがっているともな。」
「閣下・・・まだ隠れている者の処分は。」
「私が一日待てと言った意味を考えろ。お前たちの判断に任せる。根こそぎ奪う必要はない。」
大人たちが何やら話していることは、子供のレドリーには理解しかねた。ただ、皆殺しだとか、町を焼き払うとか、火を放つという言葉は強烈で、物凄いショックを受けた。
「そんなこと、させるもんかっ。」
レドリーはひどい傷のせいで
ジェラールは、無数に傷つけられながらも恐怖を
「正義感の強い、いい目をしている。」
馬を回したジェラールは、およそニ十キロ離れた隣町レス・アロードへと去って行った。
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