15. 後輩の死
文字数 2,222文字
レッドは首をめぐらして、無事な者、傷を負った者など、隊員たちの状態を瞬時に把握 すると、まだ息のあるリーシャの方へ急いだ。そばにはシャナイアがついていた。
ほかの者もすでに集まってきており、誰もが悲痛な面持ちで佇 んでいた。
リーシャは息も絶え絶えで、苦しそうに喘 ぎながらやっと呼吸をしている。その口の中には血液が溜まっていた。首を掻き切られたような傷だが、場所が悪くて致命的なものだ。
彼女は死にかかっていた。
まだ若く、童顔のリーシャがこのまま苦しみながら力尽きる姿は、あまりにも見るに耐えないものだった。
眉根 を寄せる瀕死 の表情はどこか寂しげでもあり、レッドは衝動的にリーシャの頭を抱いてやった。彼は手拭 いを解 くと、横を向かせて彼女の口の中の血を取り除 いた。
「リーダー・・・ごめん・・・こんなに早く。」
レッドは首を振ると、片腕でリーシャの肩を支え、もう片手で彼女の手を握った。
「いてくれて助かった。よく尽くしてくれて・・・ありがとう。」
彼女は、王女にだけでなく、隊員みんなのためにいろいろと気をきかせてくれた。些細 なことでも助かる世話に気づいてできるところを、レッドは高く評価すると共にありがたいと感じていた。
その言葉が嬉しくて、リーシャは、うっすらと微笑んだように見えた。
「リーダー・・・私・・・リーダーの ・・・―― 」
だがあとの声はついに途絶 え、呼吸もひどく儚 くなり、やがてその唇は動きを止めた。
「ダメよ!」
シャナイアは悲鳴を上げた。動揺して覗 き込んだリーシャの目は、もう光を失っていた。そして口から拭 いきれなかった血が流れた・・・。
レッドの背中に、痛切感がどっとのしかかった。仲間、部下の死に目に会うことなどつきものでも、今度ばかりはさすがに応 えた。女戦士たちを、どうしてもほかの男の隊員と同じように見ることができず、その一人も死なせたくはなかったのである。
重いため息をつきながらリーシャの瞼 に手を当てたレッドは、口から流れた血も拭 いて綺麗な顔にしてやってから、その頭をそっと地面に下ろした。
周りにいる者たちは目を伏せて、沈黙した・・・。
「私のせいなの!」
シャナイアがいきなり言い出した。
レッドは驚いて目を向けた。どうしたのか見当がつかない。
「何を言ってる、しっかりしろ。」
「私を庇 って死んだのよ!」
「バカやろう、お前のせいじゃない。」
「私が離れたから、一人で前に出たから、そうじゃなかったら、こんなっ・・・!」
「守るためにしたことだろう。落ち着け。」
静かだが厳しい声で、レッドはとにかく宥 めようと必死になった。シャナイアは感情的に泣きわめくのと変わらない声で、震えながら滅茶苦茶にしゃべり続けている。
「ああ、どうしてよ! どうして・・・どうして、この子が、この子が死ななきゃいけないの! いやよ、リーシャ、どうして!」
「シャナイアッ!」
レッドはシャナイアの頬 をひっぱたき、それから両腕を伸ばして、ぎゅっと抱き寄せた。
その行動を見た二人の女戦士はアッと口を開け、ほかの隊員もみな驚いたが、この場合、適当な処置だということは誰にでも理解できた。
彼女は、今にも狂いかけていた。
「頼むから・・・耐えて、しっかりしてくれ。」
シャナイアの顔を自分の胸に押しつけて、レッドはそうささやいた。口調からもう違っているそれは、清らかに澄み渡った月夜のように癒 される、とても優しい声だ。
レッドは、シャナイアをそっと引き離して、彼女の目をひたむきに見つめた。
思わず黙って見つめ返したシャナイアの瞳に、じわりと涙が浮かんだ。それはそのまま頬を伝って零れ落ちた。手を動かしてそれを拭 き取る気力は無かった。
レッドのすぐ後ろにいたスエヴィが、ここでそっと報告する。
「グレイとルーカスも殺 られたよ・・・。」と。
「分かってる。モイラ、イリス、大丈夫だな。」
少々強い口調で、レッドはきいた。
友人の死の深い悲しみと共に、先輩であるシャナイアの信じられない取り乱しように唖然 としていたその二人は、これに辛うじてうなずいた。
「王女を頼む。」
モイラとイリスはハッとし、急いで背中を返した。そして、恐怖で頭が混乱しているだろうユリアーナ王女のもとへ駆けて行った。王女は戦闘のあいだ悲鳴も上げず、ただミシカの馬首にかじりついて、戦いを見ないように目を背 けていたのである。
幸い生き残った者の中に、動けないほどの重傷者はいなかった。無事な者たちは言われるまでもなく行動を起こして、迅速 に負傷者の応急手当てにあたっていた。
レッドの平手打ちが効 いて、そのあと、シャナイアもどうにか冷静を取り戻すことができたようだった。
やがて、ユリアーナ王女も気を確かに歩いてきた。
倒れた者たちが誰のために戦って命を落としたかを考えるのは辛いことだったが、ユリアーナは自身の置かれた立場を理解し、それをしっかりと受け止めて、彼らに感謝をしなければならなかった。
リーシャの遺体はレッドが、そしてグレイとルーカスは、中でもよく話をしていたルーサーとサーフィスが抱き上げ、道から外れた叢 にそっと横たえた。遺体は、丁寧に紐で縛った毛布にくるまっている。運が良ければ誰かに見つけてもらえ、発見された地域の役場などが動いて、それなりの対処や弔 いをしてもらうことができる。
そうして、一行は肩を並べて整列すると、すぐに発見してもらえることを祈りながら黙祷 を捧げた。
ほかの者もすでに集まってきており、誰もが悲痛な面持ちで
リーシャは息も絶え絶えで、苦しそうに
彼女は死にかかっていた。
まだ若く、童顔のリーシャがこのまま苦しみながら力尽きる姿は、あまりにも見るに耐えないものだった。
「リーダー・・・ごめん・・・こんなに早く。」
レッドは首を振ると、片腕でリーシャの肩を支え、もう片手で彼女の手を握った。
「いてくれて助かった。よく尽くしてくれて・・・ありがとう。」
彼女は、王女にだけでなく、隊員みんなのためにいろいろと気をきかせてくれた。
その言葉が嬉しくて、リーシャは、うっすらと微笑んだように見えた。
「リーダー・・・私・・・リーダーの ・・・―― 」
だがあとの声はついに
「ダメよ!」
シャナイアは悲鳴を上げた。動揺して
レッドの背中に、痛切感がどっとのしかかった。仲間、部下の死に目に会うことなどつきものでも、今度ばかりはさすがに
重いため息をつきながらリーシャの
周りにいる者たちは目を伏せて、沈黙した・・・。
「私のせいなの!」
シャナイアがいきなり言い出した。
レッドは驚いて目を向けた。どうしたのか見当がつかない。
「何を言ってる、しっかりしろ。」
「私を
「バカやろう、お前のせいじゃない。」
「私が離れたから、一人で前に出たから、そうじゃなかったら、こんなっ・・・!」
「守るためにしたことだろう。落ち着け。」
静かだが厳しい声で、レッドはとにかく
「ああ、どうしてよ! どうして・・・どうして、この子が、この子が死ななきゃいけないの! いやよ、リーシャ、どうして!」
「シャナイアッ!」
レッドはシャナイアの
その行動を見た二人の女戦士はアッと口を開け、ほかの隊員もみな驚いたが、この場合、適当な処置だということは誰にでも理解できた。
彼女は、今にも狂いかけていた。
「頼むから・・・耐えて、しっかりしてくれ。」
シャナイアの顔を自分の胸に押しつけて、レッドはそうささやいた。口調からもう違っているそれは、清らかに澄み渡った月夜のように
レッドは、シャナイアをそっと引き離して、彼女の目をひたむきに見つめた。
思わず黙って見つめ返したシャナイアの瞳に、じわりと涙が浮かんだ。それはそのまま頬を伝って零れ落ちた。手を動かしてそれを
レッドのすぐ後ろにいたスエヴィが、ここでそっと報告する。
「グレイとルーカスも
「分かってる。モイラ、イリス、大丈夫だな。」
少々強い口調で、レッドはきいた。
友人の死の深い悲しみと共に、先輩であるシャナイアの信じられない取り乱しように
「王女を頼む。」
モイラとイリスはハッとし、急いで背中を返した。そして、恐怖で頭が混乱しているだろうユリアーナ王女のもとへ駆けて行った。王女は戦闘のあいだ悲鳴も上げず、ただミシカの馬首にかじりついて、戦いを見ないように目を
幸い生き残った者の中に、動けないほどの重傷者はいなかった。無事な者たちは言われるまでもなく行動を起こして、
レッドの平手打ちが
やがて、ユリアーナ王女も気を確かに歩いてきた。
倒れた者たちが誰のために戦って命を落としたかを考えるのは辛いことだったが、ユリアーナは自身の置かれた立場を理解し、それをしっかりと受け止めて、彼らに感謝をしなければならなかった。
リーシャの遺体はレッドが、そしてグレイとルーカスは、中でもよく話をしていたルーサーとサーフィスが抱き上げ、道から外れた
そうして、一行は肩を並べて整列すると、すぐに発見してもらえることを祈りながら
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