9. 4年後
文字数 1,652文字
少年は淀 みなくすくすくと成長していき、この夏の盛りに、リューイは十五歳になった。とはいえ、生後数か月で母親の手から託 されて十五年だ。いつ生まれたかまでは、ロブは知らされていない。その時、彼女にはそんな余裕などなかった。
三度の食事を取るのと同じように鍛錬 を積んできたリューイは、ぐんぐん背も伸びて、ロブの望み通り逞 しく、だが粗野 で少し野蛮 に育った。相変わらず規則を破ることもままあり、幼い頃ならしゅんと反省しているところが、いわゆる反抗期になると、自分の言い分を主張して喧嘩を売るようになってしまったのである。
それは次第に珍しくもなくなり、ロブが思わず若い頃のように乱暴な言葉を吐くようになったので、リューイもそれを覚えてしまった。今では、訓練の時間を除いて、リューイの言葉遣いは、お世辞にも丁寧で紳士的なものとは言えなかった。
そして、腰みのならぬ腰布はいつしか短いズボンになったが、海を素っ裸で泳ぐので全身綺麗に日焼けして、少年ながら筋骨隆々 の見事な体つきをしていた。原生林が生い茂る泥 の沼 から這 い出すワニと、格闘できるようにもなった。不意をついて襲いかかってくる獰猛 な大蛇 を、片手の一握 りで締 め殺せるようにもなった。だが、その目の煌 きだけは、幼き日のまま変わることはなかった。
この日は棒術の訓練。ロブはさすがに熟達しており、見事な手捌 きで思うままにそれを駆使 することができた。そしてリューイは、これを教 わったのはつい一か月ほど前のことだったが、楽しくてならなかったので、そら恐ろしいまでの呑 み込みの速さで習得していった。
棒を打ち鳴らす甲高い音が、樹海にけたたましく響き渡っていた。
長棒をめまぐるしく上下させて、リューイは息もつかせぬ猛攻を繰り出している。このまま押して、相手が怯 んだ隙 に足を掬 おうと。
ところがアッと思った瞬間、手元から長棒が天高く吹っ飛んでいった。逆に、ほんのわずかに生じた隙を、まともにつかれてしまったのだ。
それをつい目で追ったリューイは、ハッとすると同時に後ろへ連続二回転。間一髪、胴をめがけてなぎ払われたロブの長棒を、辛 うじて避 けることができた。勝負はどちらかが膝 を折るまで続く。
サッと駆け寄ったロブは、鮮やかな回し蹴 りをしかけた。ロブも長棒を捨てていた。この時から体術の戦いになった。
リューイは、それを前のめりに飛び越えて地面を転がった。立ち上がった時、もうロブの手の甲が横殴 りに襲ってきたが、リューイは振り向きざま右の前腕 で受けた。透かさず連続でしかけられた掌底打 ちも、全て確実に受け止めた。
ところがつい注意が逸 れて強烈な蹴 りを食らう羽目に。さすがに甘さを見逃 さない師匠の、まともに入った横腹への蹴り。
ロブは、もはや力加減 も一切しない。そのため、今ではロブよりも身長のあるリューイでも、あっという間に蹴り飛ばされて、そばの巨木の幹 に激突した。そこで思い切り後頭部をぶつけたので、リューイは瞬間、目の前が真っ白になった。
ロブが本気を出すようになったことに、リューイは気付いていない。武闘家として、リューイはもう師匠と互角にやり合えるまでに上達したのである。それどころか、老 いてゆくロブよりも、今ではリューイの方が力やスピード、そして身体能力は上だ。その証拠に、リューイが呻 いている目の前で、ロブは荒い息をついていた。まだまだ無駄な動きも多く、見極める感覚や判断力は荒削 りなものの、教え始めたこの棒術をものにさせれば、あとはもう教えることなど何もなかった。
リューイは首を振り、視野が定まると幹をつかみながら立ち上がって、師匠の前で姿勢を正し、一礼した。
「参りました。」
「うむ。」
ロブは厳格な顔でうなずいた。
「じいさん、行っていいか。」
続けてそう言ったリューイの顔には、気が急 いているのがあからまさに見て取れた。本来なら無礼だと叱 るところだが、ロブは、今回は特別に許してやることに。なぜかを知っているからだ。だがその前に、彼には言うことがあった。
三度の食事を取るのと同じように
それは次第に珍しくもなくなり、ロブが思わず若い頃のように乱暴な言葉を吐くようになったので、リューイもそれを覚えてしまった。今では、訓練の時間を除いて、リューイの言葉遣いは、お世辞にも丁寧で紳士的なものとは言えなかった。
そして、腰みのならぬ腰布はいつしか短いズボンになったが、海を素っ裸で泳ぐので全身綺麗に日焼けして、少年ながら
この日は棒術の訓練。ロブはさすがに熟達しており、見事な
棒を打ち鳴らす甲高い音が、樹海にけたたましく響き渡っていた。
長棒をめまぐるしく上下させて、リューイは息もつかせぬ猛攻を繰り出している。このまま押して、相手が
ところがアッと思った瞬間、手元から長棒が天高く吹っ飛んでいった。逆に、ほんのわずかに生じた隙を、まともにつかれてしまったのだ。
それをつい目で追ったリューイは、ハッとすると同時に後ろへ連続二回転。間一髪、胴をめがけてなぎ払われたロブの長棒を、
サッと駆け寄ったロブは、鮮やかな回し
リューイは、それを前のめりに飛び越えて地面を転がった。立ち上がった時、もうロブの手の甲が
ところがつい注意が
ロブは、もはや力
ロブが本気を出すようになったことに、リューイは気付いていない。武闘家として、リューイはもう師匠と互角にやり合えるまでに上達したのである。それどころか、
リューイは首を振り、視野が定まると幹をつかみながら立ち上がって、師匠の前で姿勢を正し、一礼した。
「参りました。」
「うむ。」
ロブは厳格な顔でうなずいた。
「じいさん、行っていいか。」
続けてそう言ったリューイの顔には、気が
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