20. 皇帝ルシアスの懸念
文字数 2,661文字
床を踏みつけるようにしながら、エミリオはいつになく
皇帝ロベルトが全ての国土を取り戻したと知った時、ルシアスはいよいよ大きな
この頃には、ルシアスはもう、エミリオに対して軍の上官としての見方が強くなっていた。さらにはシャロンも
そしてついに、ルシアスは、エミリオが再三反対を唱えるのを無視して、アルバドル帝国に宣戦布告。すでに一度目の攻撃を仕掛けていた。だが、これを迎え撃ったアルバドルと勢力は
しかし実際、戦況は、エルファラムが、その痛手を隠しながらも
その間に、エミリオは再び、このまま戦争を終わらせるよう説得に向かっているところだった。
エミリオは、広間の
その扉の横で、軍事会議が終わるのを静かに待っている家来が、背筋をぴんと正してエミリオ皇子に敬礼をした。
「通せ。」
エミリオは、その家来がゾッとするような低い声で命令した。
「殿下・・・恐れ入りますが、その・・・ただ今、まだ会議が行われております。」
「私は騎兵軍大尉だ。この会議に参加する権利がある。」
「は・・・。」
人が変わったような見幕のまま、エミリオは、会議の真っ最中であるその広間へ押し入った。
室内が一気にざわめいた。
「エミリオ様・・・。」
皇帝ルシアス以外は、誰もみな皇子を直視できずに、バツの悪そうな顔でおずおずと目を向けるのがやっと。
エミリオの心境は、ルシアスを含め誰にでも理解のできること。この戦いが、裏切り行為であるのを分かっているからだ。
誰も発言しないのをいいことに、つかつかと玉座の前まで進み出たエミリオは、やにわに強い口調で父ルシアスに抗議した。
「父上、アルバドル帝国は敵ではないはずです。戦いを仕掛けたのが我々の方ならば、
ルシアスは、顔色一つ変えることなくそれを聞くと、やがて、何か異様に深みのある声で息子に言った。
「エミリオ・・・今のアルバドルの皇帝が、どういう男か知っておるか。」と。
エミリオは、その父の声が野心に燃える炎ではなく、暗い海面を渡ってくるようであるのに気付いて、黙った。
ルシアスはこんな言葉を続けた。
「元軍人で、地位こそ大将ではなかったが、軍師をも果たした陰の最高司令官と囁かれていた男だ。軍師とは、頭脳、戦略に長けた者。さらには、戦術にも優れていた男だ。かつては、財力が足りずに軍事力を付けられず、その男の才能はじゅうぶんに発揮されずにいた。にもかかわらず、かの国は奇跡的・・・いや、計画的な勝利を収め、国家として確かに存続してきた。その男のおかげだ。強運の持ち主であり、天才と呼ぶにふさわしい男。その男が王となってからのかの国は、たちまちにして目覚ましい成長を遂げ、財力に富み、今や軍事力をも我が国に匹敵するほどなのだ。
「ですが、本来起きるはずのない戦だったはずです。それをわざわざ始めたばかりに、無駄に兵力を失っているとしか思えません。」
「エミリオ・・・そなたは、次の二次戦に出陣いたせ。」
エミリオは、
「私は、戦いを止めてくださいとお願いしているのです!」
その怒鳴り声は周りの誰もを
だが、ルシアスだけは冷静だった。ルシアスは真っ直ぐに、息子の怒りに険しくなった顔を逆に
「エミリオよ、アルバドルとの約束とエルファラムの民・・・選ぶとすればどちらを守る。」と。
エミリオには・・・答えられなかった。
ただ負けじと
「よいか、かの国がこれ以上力を付けてしまってからでは、遅いのだ。天才的な頭脳と強運を兼ね備えた今や皇帝
「父上・・・。」
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