5. 懇親会

文字数 1,998文字

 こぢんまりとして瀟洒(しょうしゃ)円蓋(えんがい)天井の館内にて、誰もが遠慮なく浮かれ騒いでいた。というのも、好きにしていいとのことで、その会場には、およそ三十人いる戦士たちのほかは、料理や飲み物を運ぶ召使いしか出入りしないことになっている。昨日の敵が今日の友という世界に生き、明日をも知れぬ命という生活を送る彼らは、今この時だけしか考えない。それで、彼らの誰もが存分に酒をのどに流し込み、めいいっぱい羽目をはずしていた。

 室内の淡いオレンジ色の大理石の床には、人数に合わせた円卓がバランス良く配置されている。会場のど真ん中には、高級ワインのほか、焼酎やビールなど庶民の酒もふんだんに用意されてある。それを望めば、可愛らしい若い召使いが、愛想のいい笑顔と共に注いでくれる。ほかにも、新鮮な魚介や高価な肉を惜しみなく使い、野菜などをあしらった料理の数々が贅沢(ぜいたく)に並んでいる。どれもバイキング形式で自由にいただくことができた。

 なぜかシャナイアのほかにもいた数名の女戦士も、ここではみな女らしいドレスを召し、さりげないが美しく着飾っていた。おかげで男たちは不躾(ぶしつけ)見惚(みと)れてばかりいる。中でもシャナイアは、とりわけ彼らの目を引いた。そう大胆な衣装を着ているわけでもなく、ごく普通に清楚(せいそ)な身なりをしているだけだったが、仕事中は一つに()い上げていた髪をおろしている彼女は、レッドも思わず呆然としてしまうほど魅力的で、あたかも美の女神のよう。

 一方男たちは、もはや装身具(そうしんぐ)同様に剣を帯びていることを除けば、着衣だけは気楽なものだった。レッドとスエヴィも、見物がてら街で購入した新しいシャツを、ごく普通に着こなしているだけである。

「やっぱり引っかかるな・・・。」 

「だよな。たぶんこいつら、内心みんな気になってると思うぜ。」
 レッドのつぶやきに問い返しもせずに、スエヴィはそう応じた。

「シャナイアが俺に言った言葉。経験豊かな屈強(くっきょう)の戦士ばかりを集めるって。高額な報酬(ほうしゅう)に彼女の言葉・・・王女はすでに誰かに狙われてるのか。それも組織の(たぐい)に。」

「どこの。なんで。姫は自分の国に帰らせてもらえるだけだぜ。」

「それは分からないが・・・王女のことを消したがっている誰かがいるのは、確かだろうな。」

「だとすれば、軍の手練(てだ)れは誰もついて来ないのかよ。」

「エドリースの戦火がすぐそこなんだ。国の戦力落とすわけにはいかないんだろ。悪く言えば、王女は所詮(しょせん)人質の身だしな。もともと敗戦国のスフィニアには文句は言えないだろう。」

「それで傭兵(ようへい)ばっかりかよ。」

「だがここにいる奴ら・・・皆、確かにそうとうできるはずだ。このチーム、俺たちが心配するような敵がいるとすれば少数かもしれないが、レベルはかなり高いはず。あの報酬額は、任務の厳しさを物語っているだけじゃない。」

「なるほど。黙っていても戦士が集まってくるこのリオラビスタであの金額を見せれば、自然と凄腕(すごうで)をそろえられるわけか。せめて剣豪(けんごう)ばかり集めてみましたってところか? 不憫(ふびん)な話だな。何としても守ってやりたくなる。」

「当然だ。任務は(まっと)うする。」

「それで確か、山を越えて行くんだろう? 王女は何に乗せていくつもりだ? 下手に(いなな)くようなのは使わないだろうが、当然、馬車は響くし山道には向いてない。背の高い馬は、飛び道具で襲われたら狙い撃ちにされるぞ。」

「ミシカというお名前の可愛らしいロバさんを一頭与えられた。姫の友達だそうだ。連れて行ってくれってさ。」

「戦場でそんな我儘(わがまま)が通るのかよ。」

「それが王女の足になるんだから仕方ないだろう。ロバは小さいし丈夫だからいいだろうって。」

「おとなしいんだろうな。(いなな)いたらどうする。敵がいたら見つかっちまうぞ。」

「無駄に鳴かない馬だそうだ。もし鳴きまくったら、友達だろうが捨てていく。」

「そのあとは歩かせるつもりか。」

「最悪、仕方ないだろうな。国境までスフィニアが軍を率いて迎えに来るそうだから、それまで耐えられればいい。」

 その時、レッドの背後から、酒が回ったあやふやな呂律(ろれつ)の声がかけられた。

「よおリーダー、俺はジョーイってんだ、よろしくな。しっかし、なんでまたこんな若けえヤツにリーダーなんてさせんだろうな。お前、何か特別なもん持ってんのか。」

「特別な腕を持ってんだよ、こいつは。」
 その()っ払い具合(ぐあい)に呆れながら、スエヴィが答えた。

 そこへ、この中では若い男の声がやってきた。

「ジョーイ、またお前は! 悪いなリーダー、こいつ、酒癖(さけぐせ)悪いんだ。」

 その若者は腕がいいようには見えない女性的な顔立ちで、好感の持てる優しい声をしている。

「アル中は置いてくぞ。」と、レッドは軽い冗談を返した。

 その受け答えが気に入り、若者は笑顔を浮かべて手をさし伸べる。

「しらふの時は、これとは別人だからさ。許してやってくれな。俺はスパイクってんだ、よろしく。」

 レッドもほほ笑み返して、その手を取った。

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