9. 懐かしい温もり
文字数 1,677文字
「何か食べないといけないわね。ちょうどお野菜のスープを作ったの。」
彼女は明らかに気を使っていると分かる様子でそう言い、部屋を出て行ってしまった。
実際、エミリオは何を言ったらよいのか分からなかった。この家族が貧しいということは、部屋の様相を見れば
エミリオは、たちどころに
ひどくやるせなくなった。なぜ死ねなかったのかと、自分に腹を立てた。もう誰も必要とはしていない、守るべきものもない。愛する者にも、愛してくれる者にも、もう会うことはない。
なのに、なぜ流木になどつかまったのか。なぜ・・・生き延びようとしたのか。
分からなかった。
ひどい自己嫌悪に陥り、エミリオは痛むのも構わず、傷ついた両腕を無理に動かして顔を覆った。
そこへ、しばらく部屋を出ていた夫人が、野菜の煮込みスープを載せたトレーを持って戻ってきた。
エミリオはあわてて、だがさりげなく目をこすった。
夫人はトレーを、ベッドの空いている場所へそっと置いた。
「お待たせして、ごめんなさい。さあ、今度はゆっくり、私につかまって。」
背中と胸に手を回してもらい、そうしてエミリオは、時間をかけて上半身を起こした。
「その腕じゃあ辛いでしょうから、食べさせてあげるわね。」
彼女は笑顔を絶やさなかった。大きなスプーン一杯にスープをすくい、それに息を吹きかけて冷ましている間も、時々、視線を向けてきては微笑んだ。
死んでも構わないような体を、きっと苦労して救わせたうえ、迷惑をかけている。なんと
するのは礼ではなく
「う・・・うう・・・。」
どうして、自分はこうも関わった者を不幸にしてしまうのか・・・。エミリオはたまらなくなり、目をぎゅっと閉じた。
とうとう、涙がこぼれた。あとから、あとから湧いてくる。もはや自分の中で何かが
そう、母を亡くしてからというもの、エミリオはあまりにも
と、その時。
不意に、
十歳にも満たない少年のように泣きじゃくっている、自分。みっともない・・・と、頭で分かりながらも、不思議と恥じはしなかった。それを上回る安らぎが覆ってくれていた。
母を亡くしたのは、まさに十歳の時。自分の少年時代は、そこで終わったようなものだった。それからは、甘えることができなくなったから。思えば、恐怖や
優しく抱き寄せられて素直に身を
もし正体を知られていたら、こんな姿は別人のようだと思われるだろう・・・。
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