14. 守るための戦い

文字数 1,836文字

 真昼には強烈に輝いていた太陽もやっと弱り始めた午後、山の斜面が緩やかになり、幅も広くて歩きやすい道を一行(いっこう)は進んでいた。だが道沿いの木々や(やぶ)は減り、代わりに身を潜められる大きな岩などが散在している、襲撃ポイントといえる場所でもある。

 レッドは増して感覚を()ぎ澄まし、周囲の様子を(うかが)いながら歩いた。

 レッドは急に立ち止まると、手を上げた。隊員たちに注意を(うなが)したのである。

 こんな山中に大勢が殺気立って隠れているとすれば、何かしら、不自然に音がたつものや動くものがある。どんな(かす)かなそれでも逃すまいとする集中力で、その異様な気配を感じたからだ。

 歩き疲れた顔に一瞬にして緊張が走り、隊員たちはすぐさま臨戦態勢に入った。場所をとるが威嚇(いかく)もできる少数の大剣使いは前線につき、レッドを始めとする身軽で早業(はやわざ)にたけた男たちがその穴を埋め、女戦士は王女の周りに集められた。

 出発の日までに、レッドの要望によって、チームのメンバー同士による軽い試合が行われていた。戦闘における隊員全員の長所と短所を、彼は知っておきたかったからである。それによって築かれた壁を突破しなければ、王女を殺害することはおろか、彼女たちのもとへもたどり着けない。

 しかし山道であるため、守るべきものを中心におく完璧な円陣を組むことはできなかった。

 相手に気付かれたと分かると、敵側の指揮官が声を張り上げ、レッドの声と重なった。

「かかれ!」
「くるぞ!」

 士気を上げる雄叫びと共に、敵の多くが岩陰からわっと現れた ——!

 白刃(はくじん)が激しくぶつかり合い、たちまち甲高(かんだか)剣戟音(けんげきおん)が鳴り響く。

 敵の方が明らかに多勢で、攻撃はあらゆる角度から絶え間なく繰り出される。最初の襲撃とあってじゅうぶんな戦力がそろっているだけに、傭兵(ようへい)部隊は苦戦を()いられた。それでも、選び抜かれた一流戦士たちが築く難攻不落の鉄壁は、そうやすやすと切り崩せるものではない。

「くそっ!」

 隊員の男たちはイライラと悪態をつき、舌打ちながらも、見事な剣捌(けんさば)きでびゅんびゅんと武器を振るっている。

「中へ入れるな!」
 レッドは、敵をも威圧するほどの厳しい声を飛ばした。

 それに応えようとするかのように、隊員たちは気を引き締め、闘志を奮い起こした。そこで気付いたのである。自分に課せられた使命は敵を倒すことにあるのではなく、あくまで守ることなのだと。その声には、それを再確認させられるほどの威厳があった。

 そんな傭兵部隊の真の実力に気付いた敵の勢いに、徐々に(おとろ)えが見え始める。

 敵が劣勢となって退却するまで、このまま一人も倒れず持ち(こた)えてくれ・・・レッドが胸中で祈った、その時。

 願いも(むな)しく、ついに味方の中から悲鳴が上がった・・・!

 ちくしょう・・・防御(ぼうぎょ)が破られたと分かると、レッドはただちに叫んだ。

「スエヴィ!」

 同じように気付いていたスエヴィも、そのひと言でどうしろと言われるかを悟っている。

「俺のとこが空くぞ!」
「俺がやる!」

 スエヴィが隣から離れると、レッドは、スエヴィと自分が守っていた二人分の範囲の中間に立った。

 ここぞとばかりにその間をつかれたが、誰一人として抜けることなどできない。なぜなら、二本の剣を振るうレッドは、効率的な身ごなしと桁外(けたはず)れた瞬発力で、向かい来る敵を斬り伏せるのに手間取らないからだ。

 その隊長の戦いぶりに、敵だけでなく味方まで目をみはった。

 そんな中、王女のそばで剣を構えているリーシャが、突然、金切り声を上げた。

「先輩!」

 先輩・・・つまりシャナイアのことだ。

 防御が弱くなったところへ、シャナイアは知らず知らずのうちにひとり出過ぎていたのである。

 その声が届いてシャナイアが目を向けると、リーシャがサッと現れ、そして地面に崩れ落ちた。

 リーシャは考えるより先に、敵がナイフを向けた方へ身を投げ出していたのだ。

 シャナイアは愕然(がくぜん)としたが、幸い気が動転する前に反応してくれた体が、倒れたリーシャのその先に見えた敵をめがけて飛びかかっていた。

 相手は応戦に間に合わず、あまりに素早い細身剣で腹部を刺し貫かれ、息絶えた。

「引け、引けいっ!」

 まだ激闘のさなか、唐突(とうとつ)に退却を命じる大声が駆け抜けた。

 (すみ)やかに攻撃を中止した敵は、引き波のように雑木林(ぞうきばやし)へと消えて行く。

 この行動は、隊を編成し直すために、いったん引きさがっただけに過ぎない。居場所を突き止められたとなると、今後の行路の予想もつけられる。とにかく、すぐにこの場を離れる必要があった。


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