1. 隊員、募集
文字数 1,939文字
レトラビア帝国の帝都リオラビスタは、音楽と芸術の都テラローズに次ぐ陽気で華やかな都市である。だが、西からの勢力を警戒し、要塞 や各地の軍事施設の厳戒態勢は、常に万全を保っていた。
ワインや果物などを運ぶ運搬船が往来する河川 に沿って、この町で最も賑やかな場所がある。そこは赤茶色の煉瓦 と、色鮮 やかな絵タイルが印象的な広場で、毎日のように音楽が流れ、道化師や大道芸人が芸を見せたり、踊り子が舞いを披露したりする。夜にもなると、少し外れまで足を運べば、居酒屋や、それなりに法を守って営業している魅惑的な店が充実している場所もある。それゆえ、このリオラビスタは、激戦の地エドリースから無事に一仕事を終え、心身共に疲れきった戦士たちが癒 しを求めて立ち寄ることでも有名な町だった。
この乱世には、多くの傭兵 がいた。そして傭兵は、どこの国でも自由に仕事を選ぶことができ、雇 う側も自由に使うことができるという暗黙の了解があった。そのほとんどの者が、大陸中に散在している様々な戦士養成所でまた自由に資格を取り、職を探す。その証として、組織の紋章(刺青 )を体の一部に入れている。ゆえに雇 い主から、どこの養成所の出身か、資格はあるかなどの質問はされても、生まれはどこかと問われることはなかった。
日差しがさんさんと降り注ぐ朝、この日も例によって、その広場は楽しそうな賑 わいを見せていた。
ただ、その中にいつもとは違う光景も見られた。掲示板にたかる逞 しい男たちの群れ・・・。
そこへ、西の方角から二人の若者がやってきた。どちらも、いかにも戦慣 れしていそうな風貌 で、腰に剣を帯びている。一人は、褐色 の髪に切れ長の瞳が精悍 な若者。赤い布を額 に結び付けているのが特徴的だ。そしてもう一人は、肩まであるオリーブ色の髪をひと括 りにしている、なかなかに端整 だがどこか軽そうな男。
調子はずれで滑稽 な楽の音が流れてくる中、適当に朝食を済ませようと、立ち並ぶ露店を気儘 に転々としていた二人。だが途中、長髪の男が何かを見つけ、不意に連れから離れて行った。
彼は、掲示板の前の様子に気付いたのである。そこに、何やら同じ臭いのする男たちが集まっていることに。そして、そこに何があるのかを確認すると、串焼き料理の屋台にいる連れのもとへ駆け戻った。
「おい、レッド。運がいいのか悪いのか、また仕事にありつけそうだぜ、この国で。」
相棒の肩を何度も叩きながら、長髪の男はそう言った。
レッドと呼ばれた男の方は、店主から野菜と肉の突き刺さった串を受け取ったあとで、悠長 に返事をした。
「冗談だろ、スエヴィ。ここは戦士の憩 いの町だぞ。」
「じゃあ、今回は見送るのか。」
「止めるとは言ってない。そんな情報、どこからいきなり手に入れた。」
その男スエヴィは、黙って真横に指先を向けてみせる。
レッドは串刺し肉にかぶりつきながら、人々の頭の上を越えた先に目をやった。
すると、すぐに人だかりにぶつかった。
レッドは、残りをほおばって空いた串を店に返すと、スエヴィと共に、人々の間を縫いながらそこへ向かった。
前に隙間 ができたところを、二人は体をよじらせながら割り込んだ。掲示板の文字をだいたい読むことができた。その中には、こう書かれてある。
ユリアーナ王女の帰国にあたり、傭兵 を三十名程求む。レトラビア城にて隊員を決定する。
「帰国って、どういうことだ?」
スエヴィが言った。
「どうもこうも、そういうことなんだろう。」
「王女はこの国に人質に取られてたってことか?」
「だが解放されるなら、何はともあれ、いいことだ。」
「報酬 はかなりの額だな。さすが金持ちの国。傭兵たちがここで派手に遊んで行ってくれるおかげだな。俺たちも今夜繰り出そうぜ。」
スエヴィは締りのない笑顔でレッドを見た。
「ここなら美味い酒が飲めそうだな。」
「いや、女だろ。」
レッドは黙りこんだ。一度限りの恋で、頭ではもう終わったものとはっきりさせているつもりが、今でも体に残っている彼女のぬくもりを、まだ未練がましく切り替えてしまえずにいる・・・。
「・・・悪い、止めておく。」
「またか⁉ お前、体大丈夫かっ。」
「話が逸 れてっぞ。」
「で、どうする。」と、スエヴィは素早く話を戻して顎 に手をあてがった。
「こういうのを見ちまったら、俺に止める理由はなくなるからな。」
「テリーとの誓いか。」
「ああ。だがこの募集人数と報酬額、ただの盗賊の類 を警戒してのことだけとは思えないが。ぜひ無事に帰してやりたいが、簡単にはいかない事情がありそうだな。」
「まあ、とにかく早速 あたってみようぜ。」
即決した二人は、犇 めき合う店舗や民家のずっと後ろに見えている、威風堂々 とそびえ立つ巨大な建物の方へ足を向けた。
ワインや果物などを運ぶ運搬船が往来する
この乱世には、多くの
日差しがさんさんと降り注ぐ朝、この日も例によって、その広場は楽しそうな
ただ、その中にいつもとは違う光景も見られた。掲示板にたかる
そこへ、西の方角から二人の若者がやってきた。どちらも、いかにも
調子はずれで
彼は、掲示板の前の様子に気付いたのである。そこに、何やら同じ臭いのする男たちが集まっていることに。そして、そこに何があるのかを確認すると、串焼き料理の屋台にいる連れのもとへ駆け戻った。
「おい、レッド。運がいいのか悪いのか、また仕事にありつけそうだぜ、この国で。」
相棒の肩を何度も叩きながら、長髪の男はそう言った。
レッドと呼ばれた男の方は、店主から野菜と肉の突き刺さった串を受け取ったあとで、
「冗談だろ、スエヴィ。ここは戦士の
「じゃあ、今回は見送るのか。」
「止めるとは言ってない。そんな情報、どこからいきなり手に入れた。」
その男スエヴィは、黙って真横に指先を向けてみせる。
レッドは串刺し肉にかぶりつきながら、人々の頭の上を越えた先に目をやった。
すると、すぐに人だかりにぶつかった。
レッドは、残りをほおばって空いた串を店に返すと、スエヴィと共に、人々の間を縫いながらそこへ向かった。
前に
ユリアーナ王女の帰国にあたり、
「帰国って、どういうことだ?」
スエヴィが言った。
「どうもこうも、そういうことなんだろう。」
「王女はこの国に人質に取られてたってことか?」
「だが解放されるなら、何はともあれ、いいことだ。」
「
スエヴィは締りのない笑顔でレッドを見た。
「ここなら美味い酒が飲めそうだな。」
「いや、女だろ。」
レッドは黙りこんだ。一度限りの恋で、頭ではもう終わったものとはっきりさせているつもりが、今でも体に残っている彼女のぬくもりを、まだ未練がましく切り替えてしまえずにいる・・・。
「・・・悪い、止めておく。」
「またか⁉ お前、体大丈夫かっ。」
「話が
「で、どうする。」と、スエヴィは素早く話を戻して
「こういうのを見ちまったら、俺に止める理由はなくなるからな。」
「テリーとの誓いか。」
「ああ。だがこの募集人数と報酬額、ただの盗賊の
「まあ、とにかく
即決した二人は、
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