26. 西から来た少年
文字数 1,976文字
その少年は、うろうろと戦士たちの間を歩き回っていた。顔を覗 きこまれても、ほとんどの者がそれを気にもせず休んでいた。
そんな少年の様子を一人だけ気にしていたのは、子供好きのスパイクだった。それで、スパイクがずっと見ていると、気づいたその少年と目が合った。スパイクは感じよくほほ笑んでみせた。少年が向きを変えて、真っ直ぐに近付いてくる。
「どうした、坊や?」
「父ちゃんが、アイアスの戦士がいるって。」
そわそわしながら、少年は答えた。
さきほどの顔合わせの時には、レッドが王女の後ろに下がってほかの男たちに紛 れたせいか、気付かなかったようだ。
「ああ、それなら・・・。」
スパイクは、階段を下りてくる途中のレッドを指差した。
「あの人だよ。」
その様子に気づいたレッドは、億劫 そうなため息をついた。なにしろ、スパイクは手招きしながらこう言っているのだから。
「リーダー、この子が話がしたいってさ。」
急ぎもせずに階段を下りたレッドは、好奇心たっぷりの笑顔で待ち構えていたその少年に手を引かれて、ソファーに座った。少年は熱い憧憬 の眼差しで、眩 しいほど嬉しそうな笑顔をめいいっぱい向けてくる。
「やあ・・・名前は?」
参ったな・・・そう思いつつ、レッドはきいた。
「キーファ。」
「キーファ・・・珍しい名だな。」
「よく言われる。僕、ほんとはここの子じゃないから、付けてくれた人は知らないんだけど。あ、でも、生まれは西の方の国だって教えてもらった。」
どうやら、この子はもともとエドリース地方の孤児らしい・・・と、レッドは推測 した。そう思うと、この少年キーファに対して、孤児 だったレッドは不思議と親近感が湧いてきた。
「アイアスの試験所って、どこにあるの?」
「ロナバルス王国の、北の外れのユダって土地だ。ここからなら、そんなに遠くない。」
「どうやったら、なれる?」
「よく食べて、よく寝て、一生戦い続けるって誓うことができたら、なれるよ。」
おいおい・・・と、そばで聞いていたスエヴィは、内心密かにツッコミを入れた。
「一生?おじいちゃんになっても?」
「そういうことになるな。実は本当のところは、よく分からないんだけどな。とにかく戦える限りだ。もし辞めたいと思うようなことがあったら、この紋章 は皮膚を剥ぎ取ってでも消さなきゃならない。名誉 も何もかも、捨てちまうことになる。」
「でもアイアスって、すごく強くないとなれないんでしょ。お兄ちゃんは、どうやって強くなったの。」
「俺は、すごく強い人に教えてもらった。俺の場合は、アイアスになることしか頭になかった。その人がアイアスだったから。」
「アイアスに教えてもらって、アイアスになったの⁉」
レッドはほほ笑みながらうなずいた。
「彼は父親のような存在だった。彼の頭にも、俺をアイアスにすることしかないようだった。だから、ただそれだけを目指して訓練して・・・ほかの道は考えられなかった。」
その話に、周りにいる男たちも知らずと耳を傾 けていた。アイアスという存在は、彼らにとっても偉大で憧 れの的である。自分の少年時代を思い出すと共に、アイアスやレドリー・カーフェイという男のことを、その部下たちは改めて考えた。
「そっか、カッコいいなあ・・・なりたいなあ・・・。」
キーファは恍惚 として、何か遠いものでも見つめるように呟 いた。
この少年は、どちらかと言うと子供ながらに鋭い顔で、家の力仕事でも手伝っているのか、なかなかに見込みのあるいい体つきをしていた。レッドはその容姿に、知らずと自分の少年時代の姿を重ねていた。
とたんに辛い記憶がよみがえってきた・・・親と生き別れた時の。そのせいで不意に憂鬱 になり瞳をかげらせたレッドは、あわててそれを振り払うように微笑した。
「女の子にモテないぞ。戦場を駆けずり回りっぱなしだからな。」
「え、お兄ちゃんモテたことないの?」
周りの男たちから、気のいい笑い声が上がった。
「俺が、アイアスであるせいばかりじゃないけどな。」と、レッドは肩をすくってみせた。
誰もが、キーファの相手をしているレッドを見ていて思った。
笑うとそうでもないんだな・・・。
そこへ厨房 から香ばしい匂いが。
レッドは鼻で空気を吸い込み、その香りを味わった。親子は、大わらわで食料を用意してくれている。だがそれは、旅における携行食だ。隊員たちは今、誰もが空腹だろう。今夜の食事も用意してもらえたら・・・と、つい図々しく望んでしまったレッドは、ソファーから腰を上げた。みんなに何か食べさせなければ。
すると、玉子のスープと焼きたてのパンを持ったフィオナとローランが出てきた。
傷つき、疲れ果て、風呂上りのような姿のままでいるしかないそんな戦士たちに、二人は温かい食事と、そして、恥ずかしさで少し頬 が赤らんだ、天使のような笑顔を配り始めた。
そんな少年の様子を一人だけ気にしていたのは、子供好きのスパイクだった。それで、スパイクがずっと見ていると、気づいたその少年と目が合った。スパイクは感じよくほほ笑んでみせた。少年が向きを変えて、真っ直ぐに近付いてくる。
「どうした、坊や?」
「父ちゃんが、アイアスの戦士がいるって。」
そわそわしながら、少年は答えた。
さきほどの顔合わせの時には、レッドが王女の後ろに下がってほかの男たちに
「ああ、それなら・・・。」
スパイクは、階段を下りてくる途中のレッドを指差した。
「あの人だよ。」
その様子に気づいたレッドは、
「リーダー、この子が話がしたいってさ。」
急ぎもせずに階段を下りたレッドは、好奇心たっぷりの笑顔で待ち構えていたその少年に手を引かれて、ソファーに座った。少年は熱い
「やあ・・・名前は?」
参ったな・・・そう思いつつ、レッドはきいた。
「キーファ。」
「キーファ・・・珍しい名だな。」
「よく言われる。僕、ほんとはここの子じゃないから、付けてくれた人は知らないんだけど。あ、でも、生まれは西の方の国だって教えてもらった。」
どうやら、この子はもともとエドリース地方の孤児らしい・・・と、レッドは
「アイアスの試験所って、どこにあるの?」
「ロナバルス王国の、北の外れのユダって土地だ。ここからなら、そんなに遠くない。」
「どうやったら、なれる?」
「よく食べて、よく寝て、一生戦い続けるって誓うことができたら、なれるよ。」
おいおい・・・と、そばで聞いていたスエヴィは、内心密かにツッコミを入れた。
「一生?おじいちゃんになっても?」
「そういうことになるな。実は本当のところは、よく分からないんだけどな。とにかく戦える限りだ。もし辞めたいと思うようなことがあったら、この
「でもアイアスって、すごく強くないとなれないんでしょ。お兄ちゃんは、どうやって強くなったの。」
「俺は、すごく強い人に教えてもらった。俺の場合は、アイアスになることしか頭になかった。その人がアイアスだったから。」
「アイアスに教えてもらって、アイアスになったの⁉」
レッドはほほ笑みながらうなずいた。
「彼は父親のような存在だった。彼の頭にも、俺をアイアスにすることしかないようだった。だから、ただそれだけを目指して訓練して・・・ほかの道は考えられなかった。」
その話に、周りにいる男たちも知らずと耳を
「そっか、カッコいいなあ・・・なりたいなあ・・・。」
キーファは
この少年は、どちらかと言うと子供ながらに鋭い顔で、家の力仕事でも手伝っているのか、なかなかに見込みのあるいい体つきをしていた。レッドはその容姿に、知らずと自分の少年時代の姿を重ねていた。
とたんに辛い記憶がよみがえってきた・・・親と生き別れた時の。そのせいで不意に
「女の子にモテないぞ。戦場を駆けずり回りっぱなしだからな。」
「え、お兄ちゃんモテたことないの?」
周りの男たちから、気のいい笑い声が上がった。
「俺が、アイアスであるせいばかりじゃないけどな。」と、レッドは肩をすくってみせた。
誰もが、キーファの相手をしているレッドを見ていて思った。
笑うとそうでもないんだな・・・。
そこへ
レッドは鼻で空気を吸い込み、その香りを味わった。親子は、大わらわで食料を用意してくれている。だがそれは、旅における携行食だ。隊員たちは今、誰もが空腹だろう。今夜の食事も用意してもらえたら・・・と、つい図々しく望んでしまったレッドは、ソファーから腰を上げた。みんなに何か食べさせなければ。
すると、玉子のスープと焼きたてのパンを持ったフィオナとローランが出てきた。
傷つき、疲れ果て、風呂上りのような姿のままでいるしかないそんな戦士たちに、二人は温かい食事と、そして、恥ずかしさで少し
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