第32話
文字数 2,462文字
やがて金の湯に入り、鉄が付着して赤くなった浴槽を見ながら一息吐く。
受け入れられる言葉、そうでない言葉とあって。
恐らくこれは人間の認識の深層心理の傾向を決定付ける要素になりうると思う。
するなし、はふざけている時にしか使わない。
するな、と無しをかけていて、重複表現に見えるが和歌の作法としては有り寄りの有りで。
恐らくね。
この当時、若い頃は認識がカッチリしていたんだよ。
何故か。
ネットのスラングを吸収している頃で。
しかしバカみたいな表現が増えて、それで自分の中の何かか限界を迎えたんだ。
居心地の良かった筈の世界が、突然パイレーツコースト化したの。
それで自分の中で何かを見限って、ブッチャーばんざい出来ずに、素直にパイレーツコーストを脱出しちゃったんだよ。
そこでネット認識全体に中性子化を起こした。
新しい認識に飛びつく事が減り、後手後手でいくスタンスを取ることになったんだね。
一応、新しい言葉を見つける度にググりまくるが。
しかしやはりぼくは懐古厨を名乗ることにしているというね。
元の世界がパイレーツコースト化したことが許せなくて。
二人が金の湯から出て銀の湯に入り直しているのを、シールックはぼんやりとした目で見つめる。
赤い金の湯。
透き通った銀の湯。
どちらに入るのが良いのか、分からなかった。
三人は名残惜し気に浴槽から出ると、軽く洗体をしてかけ湯をし、大浴場から出る。
備え付けの浴衣に着替え、ドライヤーで髪を乾かすなどしてから宴会場へと向かった。
注文は全てフリーとなっている。
注文をし、つまみを適当に頼んでから、おしぼりで手を拭いた。
やがて運ばれてきたドリンクを持ち、三人は喜んで乾杯をした。