第16話

文字数 2,103文字

試聴コーナーに到着した瞬間、サンプルのヘッドホンを見て全員は顔を顰めた。
このヘッドホンは絶対に使わない。

そう決めている。

経年劣化も酷いし。

パッド部分がこんなにヒビ割れて。

汗塗れのヲタが使ったと思うだけで、もう無理。

拭いてなさそうだし。

拭いても無理だ。

ヘッドホンは自前に限るよ。

高価な物が置かれているとね。

切なくなるし、誰かのお下がりかな?とか思うよね。

何?

店員のお下がり?

益々無理だ。

たまに新品っぽいのがあるけど、失敗したんだろうなって。

売るのも面倒で、店に置いたんだろう。

ヘッドホンジプシーは分かるけどね。

しかし店側に寄付することで、地味に社内間での地位向上も狙っている、と。

寄付すると地位が上がるのか。

知らなかった。

使わなくなったポットとか寄付したことがある。

喜ばれたよ。

売ろうにも、価値が付きそうになかったからな。
勿論、状況を読んで、だよな?

押し付けは嫌われる。

まあな。

タイミングが難しいけど、クリーンヒットすると気持ちいいよ。

そんな喜びがあるなんて知らなかった。

なんということだ。

ぼくは損していたかも。

何かあったのか?
いや、フライパンを、買ったばかりの。

あげれば良かったかなと。

フライパンか。

自慢話も程々に、と思ったよ。

話すだけで終わり?

レビューが良いから買ったけど使わなそうとか、相手が興味津々そうだったとか?

そりゃ、シールックにいさん、ケチと思われたろうよ。

そんな……。

すまん。

メルカリに出してしまった。

無視。
メルカリは辞めた方がいいよ。

基本損切りだし、発掘が面倒だし、ユーザーはガメついし。

発送も疲れるし、クズも多い。

リサイクルショップの方がナンボもマシだと思う。

セカスト?

価値が付かない。

店員のハズレはあるね。

鑑識眼が無いんだ。

ハードオフは良いけど、埃っぽい感じがする。

掘り出し物なんてあるか?
倒産した店舗からの買い叩きに、たまに。

滅多にないが。

中古は諦めるか。

ワクワクしたんだけど。

あまり欲をかきすぎるのは良くない。

家電は新品、中古を買うのは貧乏人。

服はたまに良いのがあるけど、潔癖には向かない。

服はたまに。

確かに良いのがある。

あまり買わない。
インディアンに天然痘の患者の毛布を渡す、とかさっき考えなかったか?
鬼畜過ぎる。

あれは嘘だが。

なんてことを彷彿とさせているんだ。

服が買えなくなるだろう!

嘘だよ。

でもたまにね。

レディースはないけど、メンズであるんだ。

ティッシュ替わりにしてから売る、とか。

ティッシュとは?

まさか!

自慰……。
吐きそうになった。
ラブホのシャンプーに混ぜるとか、わりとよくあるし。

セクハラの延長で、手紙にかかっていた事もあった。

もうラブホ行けない。

行かないけど。

手紙ね。

あれは分かるけど。

分かるとは?
書いている人に宛てた、霊的な悪戯だよ。

全くもう。

そんな事が?

自分へのメッセージとは思わなかった。

ただの愉快犯かと。

アルクもか。
しないよ。
分かるよ、やはり。
邪悪だ、みんな。
CD屋から出ると、三人は服屋を見て回る。


ハニーズの前を通りかかった時、アクルックスはふと足を止めた。

掘り出し物だ。

300円の服だ。

懐かしい。

昔はよくあった。

何?

ハードオフじゃなくて?

たまにあったんだよ。

規格外の激安服が並ぶこと。

サイズが合えばラッキーだった。

レディースか。
最強だったけど、最近は駄目だ。

没個性。

ちょっと違う感じの可愛さが良かったんだけどな。
なるほど。

レディースは分からない。

メンズは高くて。

生地面積が広いからさ。

それに、メンズは丈夫でないと破く人が後を絶たないから。

どうしても高く付く。

ユニクロか。
そうだ。

ジーユーは駄目だ。

安っぽい。

最近は良いけど、高くなりすぎ。

ワークマンに軍配が。

ワークマンか。

そんなに良いのか?

書いている人は、ワークマンのコックシューズ一足しか持っていない。

それで事足りる。

防水だし。

ヒールは苦手で。

ヒールは履かない?
昔は履いていたが、出産に伴い辞めた。

そして子どもと水たまりで遊ぶ用にコックシューズを選んで、それっきりだ。

水たまりで?

母親の鑑だな。

子が長靴を喜んで履いていたので。
幼稚園にも履いて行ったな。

怒られたが。

楽しそう。

良いなあ。

そういう人が周りにいない。

子が小さい内は、女性という肩書はお休みするんだ。

その内にまた復活することを願って。

うちは……女性を捨てていなかった。
保育士になるレベルじゃないと無理だ。
はあ。

パイレーツコーストから脱しよう。

追放されるよ。

ブッチャーーーーー!

意識高い系に染まると、こういう感覚とのエンカウント率が極端に下がるよ。
笑う。

お前はいつも意識高い系なのに、何故かこういう感覚を知っていて。

やはりなあ。

意識高い系、エセ?
金持ちの練習みたいな。
練習か。

なるほど。

根は卑しいのか。

卑しいというか、世界を知らない。

そして向上心の欠如だ。

やはり禅しかない。

禅か。

お茶とかお花とか、やはり必要かな。

正座からスタートだ。
確かに。

正座くらいなんだと思うが、出来ない奴が多い。

あの正座なんだか覚えてる?
会えなくても記憶を辿って、同じ幸せを見たいんだ。
あの香りと共にはなびがパッと開く。
エスカレーターの向きを確認し、揃って階下へと降りていった。
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登場人物紹介

シールック

シリウス

アクルックス

シェル

スクナヒコナ

ミゾレ

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