第44話

文字数 2,454文字

ごろっとマンゴーのアイスを食べながら、シールックは訝しげにシリウスを見つめる。
半額を許すものとそうでないものがあると言ったな。

きみは過去、完熟マンゴーは半額が最高とか呟いていたが、まさに。

安かったし、本当に驚く程の美味しさだった。

マンゴーは半額で買うものだったよ。

そんな古い投稿を見たのか。

その通り。

安いし甘いし美味しい。

マンゴーは腐りかけが最高だ。

やめてよ。

完熟も完熟と言ってくれ。

食べる気がなくなる。

口が悪かったね。

過去、投げ売り100円で買ったタイ産マンゴー。

あれ以上美味しいマンゴーに未だ会えていない。

投げ売り100円?!

なんて安さだ。

豪運だったと思う。

とろけるような口溶けの、渋みが一切ないマンゴーだったし。

豪運過ぎるだろう。

全くきみは……。

あんなに美味しいマンゴーはさすがになかった。

飾り切りもせず、素朴に食べた。

一緒に食べたのか?

羨ましい!

強化合宿期間で、同化していたので。
同化?

霊魂の?

そんな話は聞いたことがないぞ!

……転生時に複数の霊魂が一つのヒューマノイドに揃う、という事はある。

多重人格とはまた別の。

アルクは最近、ぼくから出たんだ。

主人格のぼくは肉体の機能停止までは途中で抜け出すことは出来ないけど、お供の霊魂は自在さ。

入り直しも出来た。

霊体は自由だ。

そんな……。

可愛すぎるだろう!

何が可愛いのか。

ほっこりしたのか?

ほっこり……。

そうかもしれない。

なんか、いいなと。

にいさんも食べたかったかい?

その内にまた、再現したあのマンゴーを渡そう。

魔法は?
今食べたいのか?

仕方ないな。

ほら、件の再現完熟マンゴーだ。

切ってあるよ。

シリウスは完熟マンゴーを魔法で再現し、アイスの蓋の裏に切った物を乗せた。

果汁滴るそれを、シールックとアルクは揃って食べる。

最高すぎた。

何もかもが。

またこれが食べられるなんて。
良かった。

口に合って。

やはり食は人生を豊かにする。

手頃な娯楽だ。

この間のカレカノの話な。

続きを聞かせてくれ。

なんだか気になって。

有馬が狂った話な。

なんであんなに狂ったのか?

おお。

あれな。

やはり雪野が冷た過ぎたというので落ち着いた。

有り得ない冷たさだ。

jkとはいえ。

jk……。

懐かしい響き。

リアルでJKしていたので、あまり新鮮味がない。

しかしカレカノは当時物凄く熱心に読んで。

完結はまあまあかなと思ったが、霊媒修業を続けると、やはり違和感が拭えない。

noteには出来るだけ優しい感じに書いたが。

理解した。

盛っていたんだな。

リアルでJK……か。

夢のある。

盛っていたとは?

noteにはオブラートに包んだ言い方をする。

あれでも、気にして書いていた。

やはり雪野は冷たいし、有馬はバカで。

作者は迷走したと思う。

あれでもって。

かなり面白いんだけど。

迷走……。
しょっぱい画像でごめんな。

実家の単行本だ。

有名な有馬のキレシーン。

これは自分を分かっていない現れだ。

こんな事言いたくない、というのは綺麗事で絶望を雪野にぶつけきれずにいる。

かなり無理して付き合っていたのだろう。

しょっぱいだと?

なんだ、その表現は。

田舎言葉か。

色褪せて、醤油が染み込んだような紙などの印象を、昔の人はしょっぱいと表現した。

初見は驚くよな。

ぼくも爆笑したが、慣れた。

まあ、普通は驚くだろう。

引き続きしょっぱい画像を載せるね。

古い本だから、経年劣化でどうしてもな。

これは高一の時の、夏休みのシーンだ。

インターンから帰ってきた有馬に雪野が微妙に塩対応するので、有馬がキレた。

恋の上書きってことでオチがついたが、本当にそうだろうか?

これまでの認識との差異に追いつけなくて、微妙に雪野が引いている。

若者によく見られる現象だ。

なんだと?

恋の上書きではなかったのか?

待て……。

塩対応とは?

雪野が露骨に目をそらすのさ。

有馬が知らない男の子化していたので、警戒している。

実は、これで誰かさんと喧嘩したことがある。

それで悟った。

甘えっこ男子に塩対応は禁忌だとね。

前の?

あれ?

バカかと。

……辛いよ。
にいさんも経験がある筈だが。

とにかく、男子というのは甘え対象の標的をロックオンすると崇拝に近い念を向ける性質がある。

そこで女の子が対応しきれるかどうかで円満になるか否かが決まる。

女の子に必要なのは受容の心さ。

にゃんごろ再現出来ないと駄目。

常に。

にゃんごろ再現……。

無理だ。

それで。

分かった。

もう女の子とは付き合わないよ。

いい子に会えないから。

旦那は育てるものというが、無理だ。

にゃんごろしつつ、成長を見守るくらいでないと。

手綱に取るなんて言い方はしたくないが、優しさのぬるま湯で癒しを与え続けないと男子は付いてこない。

増長するようなら、相性が悪い。

ほんわか切磋琢磨だ。

ペースとメリハリが大事。

なんてやつだ。

永遠についていくぞ!

シリウス!

ああ。

シリウスと結婚したいくらいだ。

なんて男性心理を理解しているんだ。

いや、理解していてもそれを実行出来るかは相手次第でな。

時間がかかる。

焦りは禁物だ。

この真秀の態度は良くない。

まるでおこちゃまだ。

歯が立たないなんて、何と戦っているんだとなる。

男を手綱に取りたいのか?

それは違うよね。

JKだから、若さでなんとかゴリ押しているだけに過ぎない。

勢いで結婚するエンドだが、処女効果としか思えない。

なんて奴だ。

そこまで考えないぞ。

普通じゃない。

貴志?

27,28?

まるで大人のわけがないよな。

またまた勘違いだったか。

僕が、そのくらいの頃はもっと幼稚で……。

可愛い感じの空気。

夢見てたね。

アニメや漫画の登場人物と同い年になった時の失望感。

同い年がTVなどで華々しく活躍しているのを見る焦燥感。

それに近い。

……2つ目はないな。
お前はそうだろう。

ぼくはシリウスと一緒の時のみあった。

個人活動期は……ゆうて幸せではなかったが。

幸せではないよな。

わかるよ。

苦痛の連続だ。

ケツアルカトル次元まで頑張れよ。
……今なら分かるよ。

ケツアルカトルでも辛いけど。

20〜999次元?

無理だ。

空になったアイスの箱を積み上げ、片付けると今度は熱いお茶を注文した。
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登場人物紹介

シールック

シリウス

アクルックス

シェル

スクナヒコナ

ミゾレ

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