第54話

文字数 2,490文字

太鼓の達人の難しいを難なく熟した二人は、シールックにバチを渡そうとする。
出来る?
無理。
なんで?

楽しいよ。

なんか出来ない。

外す。

簡単なのから始めなよ。

ほら、チャールストンとか。

チャールストン?!

やだよ!

難しそう。

一番簡単なのさ。

やってみせようか。

二人はコインを入れると、チャールストンの難しいを選択し、難なくこなしていく。


簡単は非常に簡単だが、難しいは最高難易度を誇る曲だった。

なんて奴らだ。

何者だ。

毎回そういう事を言うのな。

全く……。

健忘菩薩め。

脳味噌ツルツルだとたまに思う。

しかし、たまに意表を突く事を言うからな。

油断出来ない。

褒められているのか貶されているのか。
いつものパターンだな。

人の輪の中心、時々ハブ!

ハブ……。

分かる。

なんでそこはハブなの?
え?

自分が今、何となくハブられている事に気付いていないの?

三人組の難しい所に来ているだろ?

呑気が過ぎる。
ハブられていた?

そんな……。

いつも一緒だろう。

おい!

距離感!

ふざけているのかな?

これはボケ?

突っ込みを入れようにも、どこから手を付けてよいものやら。

キレがないよな。
へっぴり腰だって?
なんだよ。

いつものバントか。

二回目くらいで定着するな。
里見くんも、一回で覚えたから。
白髪のお赤飯も、すぐだよ。

思い当たる節が多過ぎて。

にいさんも大当たり人間だったんだ。

ふうん。

そこ、入れるんだ?

入れる?

どういうことだ?

辞めてやれよ。
ちょっとからかい過ぎたか。

すまぬ、にいさんよ。

??

いいけど……。

本当に駄目だな。

専門外だとすぐこれだ。

うーん。

既核質は得意?

無は良いとして、未核質が驚くべき発現をすることがある。

有核質は微妙。

どうなっているんだ、にいさんの核質は。

掴み所が全くない。

かと思えばチョロい。

謎過ぎる。

核質については全く分からないが、土かどうかを見極めるのは得意だよ。
ほう。

風が標準で、土意識を読む?

水はないし、火から生まれている。

これが人間の在り方なのか。

ぼくはシリウスに、ミレーの落ち穂拾いのようだと言われた。

全く意味が分からない。

シリウスの考えている事は掴めない。

ミレーの落ち穂拾い?

どういうことだ?

あの、腰が痛そうなやつ?

アルクは、なんか細かい事をチマチマチマチマと丁寧に丁寧に作業しているのをよく見かけるので。

それで、落ち穂拾い得意そうかな?と思っただけ。

実際にやったが。

一番大量に拾ったよ。

ぼくは何に見える?
どうかな?

有名な絵画?

グロスキーだから、ゲルニカじゃね?

笑う。

なんであれが好きだと分かった。

別に……。

本当に変な奴だよ。

ゲルニカが好きだって?

どれだけマガマガ好きなんだよ。

マガマガ……。

禍々?

あれはピカソが、愛人二人が自分を取り合う様子のあまりの醜さに辟易し、争うことの虚しさを描いたものだよ。

争いの種本人が描いたことで、大変な風刺画になっている。

モテ画だったのか。

採用。

性格悪いな。
まさかの大ヒット。

イデアを見るにしても、人間の底が知れるというか……。

おっとこんな皮肉はいけないな。

皮肉なのか?

褒めだろう。

……シールックにいさんは邪悪だね。

菩薩部分を探そう。

菩薩部分ねえ。

ばかばかし。

にいさん、太鼓の達人をやりたがらないのは、もしかしてバチを握ると手の皮が剥けるからじゃないか?
何故分かった。

親指の付け根辺りが。

痛いから嫌になった。

力込めて叩き過ぎだろう。

あまり力むと冷静さを欠くし、コンボが狙えない。

優しく叩くんだよ。

初心者あるあるだ。

最初は誰でもやること。

リアルの太鼓は力いっぱい打たないと音が出ないし。

太鼓の達人は、プロはドラムバチを愛用するくらい軽く叩くものだよ。

力加減を学ぶのに最適なのさ。

え?

ドラムバチ?

まさか、そんなので反応するのか?

するよ。

ダラララララ……と打つのさ。

見たことない?

プロの動き。

備え付けのバチは確かに打ちにくいけど、これでフルコンボを取ってこそプロだろう。

全く、道具の力に頼るようではまだまだ。

ドラムならやってた。

もしかして、出来るのでは?

やってみな。

ほら、魔法でドラムバチを作った。

良いバチだ。

簡単から始めてみよう。

ドラムバチで、簡単から?

なんてやつだ。

シールックは一人プレイで太鼓の達人を起動した。


桃色の片想いの簡単を選び、軽い手付きでコンボを決めていく。

え!

あっという間にフルコンボだドン!

こんなに簡単だったのか?

簡単だしなあ。
カツもしっかり優しめに打っていたな。
普通は、難易度普通から始めるものだと思っていた。

プライドが。

え?

視位置が悪いのか?

視位置?

知らない。

上か下かを判断して、手を動かすだけだろう。

そういうことじゃなくて、見栄張らない?

簡単を選ぶの、実は恥ずかしいよ。

疲労を言い訳に、とか常だが。

上のレーンか下のレーンか?

それだけ?

後は手を動かすだけ?

無理だよ。

何?

風船で戸惑う感じ?

風船……。

どうしようかと思う。

どうなっているんだ、コイツの脳は。
……視野が物凄く狭いのかな?

しかし面記憶は得意。

謎な認識だ。

これはにいさんだけのオリジナル感覚かもしれない。

唯一無二だ。

唯一無二のオリジナル感覚……。

嬉しい。

なるほどね。

もしかして、赤のドンと青のカツが同時にでてくると、ちょっと困っちゃう?

大きいのはともかく。

困っちゃう。
線の視線?

なるほど。

眼球の動きが独特か。

簡単しかプレイ出来ないね。

ごめんね、シールックにいさん。

にいさんの感覚を知らず、恥ずかしいとか罵詈雑言を吐いて。

にいさんにはにいさんの得意分野があるし、視界の預け方があるよね。

そこ無視してた。

優しさがなかったかも。

本当にごめん。

……なんて優しい言葉!

初めてだよ、そんな事を言われたのは!

いつもボンクラだなんだと。

傷付きまくって。

シリウスの感覚こそ、理解するのが難しい。
人体感覚の違いは、デリケートな問題だ。

そこは真摯な態度で臨むべきだよ。

にいさんの感覚についての把握が不足し過ぎていた。

それを知るためにこうやって絡んでいるんだけど。

え!

ぼくを深く知る為に絡んでいるの?

本当に?

そうだが。

今更な事を言うなよ。

涙が出てきた。

うれぴ。

うれぴ。
太鼓の達人コーナーから離れ、三人はミニゲーム機のコーナーへと向かった。
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登場人物紹介

シールック

シリウス

アクルックス

シェル

スクナヒコナ

ミゾレ

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