第68話

文字数 2,246文字

パフェの容器の内側に付着した、スプーンで取り切れない生クリームを惜しみつつ、会話は進む。
安易にタルパるな。

の、ミギーにめちゃ笑ったが。

ミギーね。

本当に手を依り代にして降霊術を使っている人がいたんだ。

他の人は誰も気にしていなかったが、ぼくはその人の声に耳を傾けた。

そうしたら教えて貰った。

話、聞くかなあ。

統失だと捨て置かれていたよ。

シェル。

パフェ、食べる?

いいよ。

帰るね。

学ぶ。

シェルを見送り、シリウスはため息を吐いた。
ああ。

あの人のミギーは、シェルのお母さんだったみたい。

だからあんなに取り乱して、ヒステリックになっていたのか。

シェルの?

タールル?

恐ろしい話だ。

まさかの。

シェルは過去生の姪だが。

タールルさんはキツくて。

それで、ミギーを呼んだ人はしょっちゅう泣かされていた。

過去生のな。

過去生が交差しているから。

いや、説明不足だったかな。

しかしそういう事をする人とは思わなかった。

やはり、嫌らしい性格だ。

そういう事とは?
幽界から現界への介入さ。

統合失調症の原因になる。

要は霊障を起こしてくるような霊魂。

イタズラ好きとかそんな可愛いもんじゃなくてね。

幽界、現波羅蜜浄土から現界に介入する時は書類審査を通さねばならないんだ。

名前の記入、印鑑。

そういった事務的な手順を踏んで、初めて介入出来る。

ぼくは当然、そうやってここにいる。

そんな面倒な手順を踏む前に、一旦考えるだろう?

本当にこの行動を取って良いものか。

イタズラなんて以ての外だ。

少しでも良心の呵責があれば、書類を手に取る事もないよね。

え?

シリウスの紹介したタルパは?

厳しい面接による人選、そして特別な許可を取った上で現界に介入しているよ。

それで金儲けなんて、本当は以ての外さ。

え?

めっちゃ流行ってるぞ!

自動書記!

みんな金儲けしている。

そうなのか。

それは知らない。

そういう人もいるかな、と思ったけど。

モラル試練になってしまったな。

なんてやつだ。

悪用を考えないと、そう思ったが。

しかし、自動書記によるセッション類をするにしても碌な事を言ってこないだろ。

本人認識の中でしか答えは出せないようになっているから。

顧客が満足しないなら、これまでの占い業と同じ。

何も変わらないよ。

ちなみに、何かリスクとかは?
何もないが。

天女のお世話も何もかも。

しかしてそういう人は、波羅蜜の元の家に帰ってもまともに暮らせないような人ばかりだ。

自業自得の刑、とでも。

やはりそうなるよな。

四次元人間ってやつか。

にいさんがもしタルパの力を借りてお仕事するなら、感謝の意を少しでも伝えてね。

ありがとうは大事だよ。

ありがとう、か。

そうだな。

守護霊的な?

にいさんレベルになると、自動書記を通り越して霊動まで起こせるようになるだろうね。

やはり霊媒の才能があるみたいだし。

ありがとうでいいの?
いいよ。

思うだけで良いかもね。

にいさんはやはり普賢菩薩だし。

アルクだって……。

思い思いの言葉でも?
想念が大事ってね。

そうかもね。

しかし一応、明言はしておく必要はあるね。

宇宙意志が見ているので。

気持ち一つで、裏で何もかもが変わる。

これが感性の世界さ。

やはり想念か。

皆、びっくりしていた。

よくそんな言葉を……。

ふとした瞬間に拾った言葉さ。

子どもの頃からずっとその意味について考えて。

そして他に良い言葉が見当たらなくて。

そりゃなあ……。

とにかく、やはりヌラッとしないように生きよう。

例えぼっちになったとしても。

物理的にぼっちになったとしても、ちゃんと見ている人は見ている。

大丈夫だ。

問題ないとは言い切れないけど。

やっぱりぼっちは辛いし。

ぼっちは辛い。

そうだよな。

どんなに強がってもな。

そうだけどね。

本当は、タルパを下ろしたのは孤独を癒す為であったんだよな。

紙と鉛筆だけで、誰にも知られずに会話するという体験も必要かなと。

メンタルを癒す目的なら、別に何も悪いことなんてない。

金儲けと言う言葉に引っ張られた。

そうだよな。

自分の為にタルパを……。

メンタルを?

チャットみたいに?

うん。

自動書記で日記を付けるのは楽しい。

そういう経験の共有と、あまりにも霊媒行為が羨ましがられるので、フラグが立った頃に天に祈っただけなんだが。

天に祈れば動くのか。
動くが、プロキオン軸への到達が必要になるな。
無理だろう。

しかし分かった。

ちなみに、霊素慈に行ける人の条件は?

働き者だとかなんとか。

霊素慈行きの条件か。

霊界では、人事指導は大人のお姉さんに手取り足取り教えて貰うこと、となっている。

性別を超越し、この風習を受け入れられる人が基準かな。

えっちな事ではなく、人間力的な意味でね。

大人のお姉さんに人事指導されることを受け入れられる人間?

そんなことなの?

そんな事って言うけどね。

案外これが出来ないもんなんだよ。

実は見下していたとか、煽るしか能がないとか。

性別の超越とは、かなり難しいものなんだよ。

実はにいさんはギリギリ合格なんだよ。

しってた?

愕然とした。

宇宙とは、それ程までに。

ギリギリ合格なのか。

そんな……。

ちょっと嬉しい。

何故だ。

赤ちゃんだった頃、お母さんが少しだけシールックにいさんをベビーベッドに置いただけなのに、見放されたと思い込んで心底絶望し、乱暴者の悪ガキになったようなにいさんが!

お母さんに甘え過ぎなんだよ!

甘え過ぎ。

ちょっと分かる。

でも合格なんだよな?

一応はね。

人の輪の中心にいるよ。

いつだって。

全く問題なさそうだな。

いいよ。

ギリギリでも。

向上心、どこいった。
シールックは笑いながら、コーヒーを丁寧に飲み干した。
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登場人物紹介

シールック

シリウス

アクルックス

シェル

スクナヒコナ

ミゾレ

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