第52話

文字数 2,249文字

展示されたボーリングのボールを見ながら、他愛ない話は続く。
旦那との出会いは?
紹介。
間違ってはいないが。
紹介か。

よくあることだ。

ぼくは押した。

目に浮かぶようだ。

虎牙破斬!とか言ったのか?

お前!

なんてことを!

一番悪いパターン。
本当に?

それじゃ駄目だと思うぜ。

火を見るより明らかだ。

そんな。

シリウスは?

押したが。

一応、恋愛だ。

まだ気はある。

義は立てるよ。

こいつは義理堅いぞ。

他に身体を許さない。

絶対に。

義……。

突然何を。

別に。

嫌な話ばかり聞いて。

霊媒で義を立てる重要さについてよく話題に上がるので、その流れさ。

子どもはずっと大事だし。

義を立てる重要さだと?

どんな偽善だ!

ほう。

信頼とか、そういうことに縁がないのか?

どんなに陳腐に見えてもね。

再確認って大事だから。

意識の発生点としてね。

エロ話が多いが、医学の視点と心理学分析の為の資料だからね。

浮気なんてしないよ。

医学と心理学……。

信じられない。

感性が先立ち過ぎだよ。

そして世の中に期待し過ぎ。

そして勝手に落胆して、勝手に裏切られて。

冷酷に聞こえるが、真実だ。

ぼくはこれで何度も泣かされて。

アルクよ……。

全く。

そういう性格だから、夢が叶わなかったんだよ。

欲しいものが手に入らなかったんだ。

いいの!

今はいいから!

そうか。

悪かったね。

たまに、なんて声掛けしようか悩む。

流れに任せるしかないんだけど。

何?

ロマンスなのか?

通常運転。
いつもの会話。
これが?

ドラマみたいだが。

ドラマみたい?

あまりフワフワしたやり取りはしたくないんだ。

しかしアルクと話すと、まるでアニメによくあるコメディシーンみたいな展開になりがちで。

こんなフワフワ!というんだけど、アルクはフワフワとは思わないらしい。

楽しいんだと。

コメディシーンがフワフワ?

どんなだ!

例えば、ツン、と突くだろ?

そうすると、シリウスが痛いという。

痛いのは嫌だとぼくが言うと、シリウスはこっちが痛いんだよ!という。

そんな感じの。

おい!

やはりドラマのシーンか何かだろう!

台本は!

ないよ。

何を言っているんだ。

ぼくはアルクの態度が悪いと思っているが、それもコミュニケーションの形の一つとして流している。

全く、漫画みたいなやつだ!

ぼくの態度のどこが悪いんだ!
人のせいにして!

突いたのはそっちだろ!

ご馳走様感が凄い。

本当に付き合っていないのか?

億年単位の付き合いだが。
そういう事ではないと思うよ。
……!

覚ましてくれ、目を!

悪夢だ!

何?
こんなやり取りがずっとしたかったんだよ!

どっちがどうとかじゃなくて。

うちだって、どっちがどうとかのやり取りはあるよ。

例えば旦那は車体感覚ならぬ人体感覚が鈍くて、まるでゲームのマス移動みたいな動きをする。

自分の周囲にスペースを大きく取っていないと気が済まない。

そこである日、まるでドットのゲームの主人公アイコンのようだと言ったんだ。

デッドスペースだらけの。

障がい物に当たると、ズンズン音がする、まるでポケモンの主人公みたいだと。

そしたらそれが気に入ったらしく、それから旦那は障がい物に当たったと判断するとズンズン言ってぼくを煽るようになった。

喧嘩していないよ。

ふざけ合って、誤魔化している。

なんて夫婦だよ!

爆笑したろう!

羨ましくて死にそうだ!

こういう奴だから。

なんか、笑いで誤魔化すんだ。

仕方ないだろう。

人間二人揃ったら、どうしても喧嘩はする。

不都合が出る。

騙し騙しやっていくしかないんだよ。

何も騙していないが。
ふざけている。

どうしてぼくはこんな結婚が出来なかったんだ……。

友達同士は?
友達?

友達ならいっぱい……。

楽しかったが。

リア充やな。

奥さんとラブるより、友達がいっぱいいて家に頻繁に招く方がリアルが充実していると思うよ。

奥さんとラブるより?

そんな筈ないだろう。

奥さんとは合わないよ。

難しい。

ほぉん。

浮気でもされているのか?

浮気は暇だからやるもんだ。

つまり飽きられている可能性。

しかしぼくはその程度、なんとも思わないんだな。

他者から見限られることなんていつもの事で。

無視だよ。

子どもが無事で、経済的に何の問題もなければ放置だ。

知らない。

何もない人生だと……。
いや。

誰にも相手にされない人生だったので、何も無い人生だったといっている。

友達も少ないし、やっと出来た結婚だし。

これは真理だ。

書いている人は常に孤独だったよ。

誰にも相手に?

信じられない。

本当なのか?

ああ。

常にぼっちさ。

看護学校時代も、仲良くなったと思ったらすぐに孤立した。

どうも受け入れられない性格らしい。

グループに入れない。

ぼっち ざ シリウス!

マジか。

超リア充かと。

いや。

自分だけハブられてみんながいつの間にか旅行に行っていたとかあるので。

リア充ではない。

ただ、オレンジチャクラを回せる様になっただけだが。

オレンジチャクラ……。

どうやって回すんだ。

にいさんには無理だ。

ぼくとお話して、永遠にオレンジチャクラの回転に巻き込まれていなよ。

それくらいしか出来ることはないよ。

口説いているのか?
口説かれた。

嬉しい。

なんだ?

寂しい男だな。

あれ?

昔フッた女の子にそう言われたな。

何?

そうか。

知らないよ。

その子はオレンジチャクラを回せる訳ではないから、一緒になったとてシールックにいさんの思うような生活を送れないと思うよ。

ぼくの頭がトんでいるだけだ。

だろうな。

こんな人、二人といないよ。

……変や。

絶対に変や。

シリウスは変。

うん。
何を言われても平然としている。

下手なツッコミは興醒めするらしい。

サイズの違う磨かれたボールを、三人はずっと眺めていた。
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登場人物紹介

シールック

シリウス

アクルックス

シェル

スクナヒコナ

ミゾレ

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