第71話

文字数 2,146文字

三人は喫茶店を出ると、近くの高級ホテルへと向かった。

丘の上の白く輝く建物の金色の門を、何の抵抗もなく、くぐっていく。

こんなホテルに泊まるって?

最高すぎるな。

ホテル遊びもしたいよな。

嫌らしい意味ではなくて、純粋にサービスを楽しみたい。

チルな時間、か。

寒そうな響きで嫌。

アイスを想像するね。

チリー。

アイス?

分かる。

雪だるま?と思った。

チリーの鈴が可愛い。
分かるよ。

何度も描いた。

ゲーム違いだが、ジャックフロストをゲームのCDケースのジャケット画として描いた。
ジャケット画?

みたいが。

実家に帰ったら無くなっていた。

残念。

令和残念話。
本当に令和残念話。
フロントに行き、チェックインをする。

最上階のスイートルームを難なく取ることに成功した。

……なあ。

なんでぼくはシングルなの?

二人はダブルで。

ええやん。

ダブル二部屋が良かった?

シェルも呼んで。

泊まる!
部屋を取り直そう。
やがて、吸い込まれるように売店へと移動する。
饅頭を買いたい。

部屋にもあるかな?

和室じゃないから。

しかし分かる。

買おう。

饅頭。

あとは、ウエハースみたいなの?

美味しいよ!

これはダックワーズというの。

ミゾレちゃん用のお土産に買っていこう。

ダックワーズ好きらしい。

甘くてサクッとしていて。

見た目より固め。

抹茶か。

好きだなあ。
……なんか、羨ましくて!

シリウスとアルク!

もっと広い部屋を取るべきじゃないのか!

大部屋!

部屋の取り直しが面倒だ。

これでいいだろう。

そうだな。

って言ってよ!

もう!

早くチルな時間を過ごそうぜ。

ダラッとアイス。

だらしない、という意味なのか。

チル。

ダラッとアイス?

溶けたアイスのイメージ?

まさにチルだ。

部屋でダラダラもそうだけど、プールのビーチでベンチに寝転んでグラサンかけて水着でじっくり焼いたりするイメージが強い。

人類が思う最高のダラダラ姿らしい。

それが最高とはとても思えんが、多くの場合チルと言えばそうイメージされるね。

楽しくないけど。

プールで寝転ぶの?

暇じゃない?

どちらかと言うと、視覚に訴える系だね。

寝転ぶ本人はインスタ映えの事を考えて、友達や彼氏に写真を取って貰っている。

写メって言わないの?
無理矢理写真を取るって言った。

どうやら写メと言う言葉は死語らしい。

分かるよ。

気を使うね。

死語…だと?

信じられない。

TU-KAセラーでは。

ほう。

ツーカーからエーユーになった感じ?

同じ!

セルラーとは言わないね。
どうして携帯の機種まで。

もしかしてスライド式の。

白いやつだった。

キラキラの。

あれは鉄板だ。
その後、紫に替えたらau移植になって。

最後までTU-KAを粘った。

紫の?

まさか?

同じ機種だし、粘ったのも!

スマホは6代目。

ピンクの。

おい!

申し合わせたのか!

ピンク!

小さいの。

6万!

砂とか雪とか。
あのアプリ!

大好きだった。

まさか……虹メモ!

動かなかったよなあ。
なんでこうも同じものを。

信じられない縁だな。

ブックマークは、星のアイコンで。

懐かしいなあ。

ブックマークな。

懐かしいな。

今のスマホは駄目だ。

ブクマが出来ない。

ケータイの画面メモが好き過ぎたが。

昔の話だ。

同じ過ぎて。

色々あったな。

モバスペも閉鎖された。

さようなら。

モバスペ?

ああ、懐かしい。

荒れたなあ。

虚無。
やがてエレベーターに乗り、最上階まで昇った。

ロビーにて、中央のクッションソファーに目をやる。

ここに集合だ。

夕飯に行くよね。

なあ。

やはり大部屋にしないか?

寂しいよ。

シールック、あそぼう!
ほら。

こんな可愛いシェルと一緒で寂しいはないだろう。

仲良くするんだろ?

プロポーズは?

すまん。

シェル。

何だか急に、な。

部屋の鍵は持ったか?

無くさないようにな!

それぞれの部屋に戻り、部屋の中を散策してから再びロビーへと戻る。
夕飯はしゃぶしゃぶなのか?
黒豚る?
くろぶたる?

初めて聞いたな。

えっ。

黒豚しゃぶしゃぶなの?

嘘みたい。

とろけるような美味しさだ。

行こう。

黒豚る!
そのまま、脂の香りの混じった湿度の高い空間へと、四人は誘われていった。


席に通され、具材の到着を待つ。

ガスコンロの点火のあと、透き通った鍋の水が煮立つのを今か今かと見つめた。

慣れてる?
黒豚しゃぶしゃぶ?

たまに。

夜な。
最高!

昼間も!

こだわり抜いていたんだ。

店長の肉のチョイス。

本当に、透き通った美しいスライスを。

何故……。

ああ、最高だな。

楽しかったな。

あの日々。

色々あったが。

思い出か。

そうだな。

ぼくも美味しい思い出を。

何?
あの、お茶。

やはりデンプンだった。

デンプンか。

見立て通りだ。

それより変身が上手いね。

変身?

ドジをしたかな?

分かったの?

いや……。

教えて貰った。

揃って霊媒を。

バレない訳がないだろ!
いや、普通に分からないよ。

教えて貰わなきゃ。

アルクは視えてもさ。

まさか。

本当に。

わからなかった?

ああ。

成功だね。

まさか、そんなに上手くいくとは。

変身か。

ありがとう。

自信を持てたよ。

マスクもあるし。

普通に小汚いおっさんにしか見えなかったよ。

勝手にイケかと思っていたので。

小汚いおっさんに!

良かった。

それを狙ったんだ。

女の子って残酷だね。
しかし流石だ。

恐れ入ったよ。

ああ。

きみのnoteを見て。

ハッと思った。

それでいいよ。

そうした方が幸せだ。

良かったのかな。

しかし。

いいんだ。

これで。

運ばれてきたドリンクで、皆で乾杯をした。
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登場人物紹介

シールック

シリウス

アクルックス

シェル

スクナヒコナ

ミゾレ

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