会話

文字数 947文字

 マリーの家で夕食を食べながら、テロンに訊ねる。
「映画なんかでは、何かを呼びだすのに図形を描いたり、呪文を唱えたりするでしょ? 自然霊や元素霊(エレメンタル)たちの助けを借りるのに、ああいうのは必要ないの?」
「誰が何をしようとするかによって、そういうやり方が必要な時や、そうするのが意味をなす場合もある。
 しかしそれは必須じゃないし、唯一のやり方でもない。
 俺はこれ見よがしの大げさな身ぶりは好かん。
 だが例えば集団で行う時には、全員の意図を一つに絞って、(フォース)を動かす必要がある。そういう場合には、図形や詠唱や手の動き《ジェスチャー》といった型を使う。
 あとは新参者を訓練するのに、まず型にはめて、基本が反射になるまでたたき込む時とかだな。
 だが型や手順自体に力はない。
 型は(フォース)を流し込むための道具であって、力そのものではないし、力のソースでもない」
 マリーがテロンのグラスにワインを注ぎ、セレスティンの顔を訊ねるように見る。
「2センチちょうだい」
 セレスティンのリクエストにテロンが笑い、マリーが穏やかにたしなめる。
「まだ練習中なんだから、自分の容量を知っているのはいいことよ。
 ……私は西洋魔術の実践者(プラクティショナー)ではないけれど、あなたの口からそういう考えを聞くのは興味深いわ」
「西洋魔術に比べれば、アメリカの先住部族が守り抜いてきた伝統は、はるかに有機的だろう。西洋のように、一神教の圧力で切り捨てた自然とのつながりを、手管を使ってとり戻そうとしているのとは違うからな」
「ええ 奪われた部分も大きいけれど、時間をかけて築かれてきた関係は、まだそこに生きている。
 そしてその道の歩み方を受け入れることで、その関係を受け継ぐことができる。すべてではないにしても、足場は与えられる。
 でも、あなたにも拠りどころとなっているつながりがあるでしょう? それががあるから、人工的な儀式の助けを借りる必要は少ない」
「まあな……」
 テロンがワインを口にする。
「セレスティン 自然霊やエレメンタルとつきあうのは、人間や動物とつきあうのと変わらん。
 知り合いになって、相手の目線で世界を理解することに努める。そして信頼関係を築く。
 本物の信頼関係は、人間目線の契約や主従関係なんぞより、ずっといい。
 お前が目指すべきなのはそちらの道だ」
 
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登場人物紹介

セレスティン

ホノルルで大学に通う。

動物、植物、あらゆる生き物と星が好き。ダイビングが趣味。

ルシアスとの出会いをきっかけに、世間で「魔術」と呼ばれているものを学ぶ道に導かれていく。

ルシアス

もと海軍の情報士官で、ニューヨークの白魔術教団のメンバー。

訳があって軍を退役し、教団を去ってホノルルに移り住んできた。

彼のまわりでは風が生き物のように不思議な振舞いをする。

テロン

海軍の特殊部隊出身で、もと白魔術教団のオフィサー。

ルシアスの友人で、アメリカ本土から彼を追いかけてきた。

マリー

山の上に隠棲し、植物を育てながら薬草やアルケミーの研究をしている女性。

以前はニューヨークでユング派の心理療法家をしていた。

鳥の羽に導かれてセレスティンと知りあう。


エステラ

ニューヨークに住む、白魔術教団のオフィサーで占星学者。

ルシアスとテロンと親しいが、強面のテロンに「俺もルシアスも頭が上がらない」と言わせる女性。

ガブリエル・ジレ

ニューヨークにある白魔術教団のメンバー。

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