雨を待つ

文字数 653文字

 窓から入る風が湿気を帯びる。テロンは空を見た。
 暮れかかった空から雨粒が落ち始める。冬のオアフのスコールは、まるでバケツをぶちまけるような激しさで空から水が落ちてくる。
 これも1時間もすれば止んで、その後には星空が広がるのだろう。
 星空……か。
 窓を閉め、ベッドの上に体を投げる。
 ちょっとばかり厄介になってきたな。
 自分の態度は最初から決めていた。だがあいつの方で勘づいて食いついてくるとなると、それをかわすのは面倒だ。
 見捨てるつもりなぞもちろんない。だが適当なところで距離は維持しなけりゃならない。
 閉めた窓を通しても聞こえる激しい雨音。
 いっそエステラでもいてくれれば……そうすれば全部、押しつけられる。
 もっとも、まがりなりにも伝統のある白魔術教団(オルド)の幹部が、セレスティンのような小娘の子守を引き受けるわけもないんだが……。
 そう考えかけて、以前、エステラに電話した時のやりとりを思い出した。
 エステラは、「テロンとルシアスのそばにいる若い女性」としてセレスティンの存在を感じとっていた。そして「その()から目を離さないで」と――。
 つまりセレスティンも、布置(コンステレーション)の一部だ。切り離すことはできない。
 それも状況は少しきな臭い。
 エステラは「これ以上質問するな、質問すればもっと情報が流れ込んで来て、自分の行動に変化が起きる」と言った。そしてそれは避けたいと。
 テロンは複数の可能性をリストしてみたが、考えられるのは、いずれも教団(オルド)との関係にまつわるものだった。
 まだあいつらとの腐れ縁は切れないのか……。



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登場人物紹介

セレスティン

ホノルルで大学に通う。

動物、植物、あらゆる生き物と星が好き。ダイビングが趣味。

ルシアスとの出会いをきっかけに、世間で「魔術」と呼ばれているものを学ぶ道に導かれていく。

ルシアス

もと海軍の情報士官で、ニューヨークの白魔術教団のメンバー。

訳があって軍を退役し、教団を去ってホノルルに移り住んできた。

彼のまわりでは風が生き物のように不思議な振舞いをする。

テロン

海軍の特殊部隊出身で、もと白魔術教団のオフィサー。

ルシアスの友人で、アメリカ本土から彼を追いかけてきた。

マリー

山の上に隠棲し、植物を育てながら薬草やアルケミーの研究をしている女性。

以前はニューヨークでユング派の心理療法家をしていた。

鳥の羽に導かれてセレスティンと知りあう。


エステラ

ニューヨークに住む、白魔術教団のオフィサーで占星学者。

ルシアスとテロンと親しいが、強面のテロンに「俺もルシアスも頭が上がらない」と言わせる女性。

ガブリエル・ジレ

ニューヨークにある白魔術教団のメンバー。

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