11 「以上です」と言うと、椅子に座った

文字数 866文字

「この答は却下、と。となると、『事故』の位置は『殺人』の前となります。この場合、亜佐子は事故で負傷した後も動き回ることになりますが、それ自体は可能であるのは、警部さんからお話があったとおりです」
 神束はカードの配置を変えて、次のように図を書き直した。



 おれはさっそく文句をつけた。
「いや、おかしいだろ。事故で車が壊れてるのに、亜佐子はどうやって南藪町と行き来したんだよ。それにこれだと、『事故発見』に間に合わないのはおんなじだ。結局、尾藤の共犯って話に戻るのか?」
「いえ、それだと警部さんにいい評価がもらえませんから、尾藤が共犯ではない答を探すことにしましょう。すると、共犯ではないので『事故発見』ノードは存在することが確定となり、発見時間と場所、尾藤という登場人物も新たに確定値となります。車も確定と考えてよさそうですね。
 この条件で、確定していない要素を変えるだけで、時間的なつじつまを合わせるにはどうすればいいでしょう。まず、事故後に車は動けないのですから、『殺人』に『車』は登場できません。ですが、この項目は確定値でないので、変更は可能です。つまり、亜佐子は事故を起こしたのとは別の車で移動したんです。また、『殺人』から『事故発見』への移動が間に合わないのも、『事故発見』から『亜佐子』を取り除くことで解決できます。ここの『亜佐子』も、確定ではありませんからね。彼女がいなくなれば、共通の登場人物がいなくなって、アロー自体を削除できます。『殺人』からのアローは『消防到着』へつながることになりますが、その時刻には余裕で間に合います。評価項目になっている車の向きの問題も、ちゃんと説明できていますね。

 まとめます。亜佐子は、事故を起こしたのとは別の車で典子宅へ向かい、彼女を殺害して、消防が到着する前に事故現場に戻った。その間、事故現場には亜佐子ではなく、別の女性がいた。尾藤が目撃したのはその女性だった」
 神束はカードに書かれた項目のいくつかを抹消線で消し、矢印を修正した。



 神束は「以上です」と言うと、パイプ椅子に座った。

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