16話 一騎打ち
文字数 5,834文字
轟鬼の圧倒的な力により、
致命傷を受けたハル、ソーマ、ヴェルグ、オズマ。
そして、残されたローラン、メルトン、琥珀に戦意など無かった。
エレベーターに轟音が鳴り響いた。
ローランが、メルトンが、エレベーターにブチ当たる音だ。
琥珀は、1人になった。
するとその瞬間、轟鬼は琥珀のいる部屋の外を向いたまま、ピタッと止まった。
轟鬼の後ろには、ソーマが立っていた。
頭に大きなダメージを負ってしまったソーマは、ふらふらと歩き、ブラッドネメシスを拾った。
その足取りは不安定で、いつ倒れてもおかしくない。
ソーマに向かって炎の拳を繰り出す轟鬼に向かって、ハルの放った斬撃が飛んだ。
しかし、一瞬で見切られ避けられてしまう。
ソーマは、エレベーターに乗った後の会話を思い出す。
ふらふらと歩き、赤いお守りを探すソーマ。
ハルはチラッとソーマを見ると、「バカだね…」と呟いた。
ラブ・フォーエバーを床に捨て、大の字になって立つハル。
これまでの炎とは違い、黒い炎を上げハルに突っ込む轟鬼。
琥珀は、部屋の外から覗き、胸に手を当てていた。
その時、琥珀の能力が発動。
遠距離にいるはずのソーマ、ヴェルグ、ハル、そしてすぐ近くにいるローラン、メルトンの傷が回復していく。
思わず攻撃からガードに移る轟鬼。
黒いの炎はそのままだ。
しかし…
一瞬の隙をとられ、轟鬼は渾身のパンチを繰り出す。
ハルの体は、メキメキ…ボキボキ…!と鳴り、ボンッ!!と燃えながら部屋の奥に向かって吹っ飛んだ。
ヒュン……!ズズウゥン!
轟鬼は炎の弾をソーマ達に向かって撃つ。
皆を振り切って部屋の奥へ走るソーマ。
しかし、ソーマはぐいっと引っ張られた。
……一方、部屋の奥。瓦礫の山に、ハルは倒れていた。
轟鬼はゆっくりとハルに近付き、ハルの手を踏む。
その時、ハルの脳裏に紋三郎と未来の姿が浮かぶ。
轟鬼は、足をどけるとハルを片手で持ち上げる。
朦朧(もうろう)とする意識の中、
ローランの目には、ハルを片手で上にブン投げ、高くジャンプする轟鬼の姿が映った。
頬を伝う涙。弱々しくハルに手を伸ばす。
しかし無情にも、轟鬼のフルパワーの攻撃がハルの腹部に直撃。
そして、あまりの衝撃に迎賓の間は大爆発。
窓ガラス、家具、壁は粉々になり、
部屋の中は煙で覆われた。
誰かの呼ぶ声がする。
無邪気で明るい、子供のような声。
声が1つ増えた。
今度は年を食った男の声。
アタシは、この声を知ってる?
なんだい、ミカンっていえばアイツの大好物じゃないか。
コタツに入ると食って、風呂から出ると食って、いつまでも飽きないねぇ。
そうだ、子供のような声はアタシの孫娘、未来。
ほんとにかわいくてねぇ、よく頬ずりしてはキャッキャと笑ってた……。
そうか、ここはアタシの家…。
3人で暮らしてたんだ…。
はて、年食ったアイツはどんな奴だっけねぇ?
はっはっはっは、その笑い方はアタシが真似してるんだよ。
そう、ハゲでスケベでヘタクソなプロポーズをした、紋三郎。
アンタのね。
? 何言ってんだい?
アタシはコタツに入ってのんびりミカンでも……。
何言ってんだい、そんなに泣くんじゃないよ…。
……!
ああ、愛してるよ……。
気がつくと、ハルは翔にお姫様抱っこをされていた。
翔は、そのまま空中をキックして部屋の中を猛スピードでぶっ飛ぶ。
突如、翔はハルをお姫様抱っこしたまま空中を旋回。
迫り来る炎の弾、そして炎の柱をアクロバティックに避ける翔。
あっという間に1階へたどり着いた。
翔は、ソーマの持っていた赤いお守りと赤い塊をくっつける。
すると、眩しい光と共にカケラが1つの球になった。
オレのスキルは数分間有効だけど、ソーマ君のスキルは3秒間だけ。
スキルの有効時間が過ぎれば自分の体に負担がかかって動けなくなる。
それに轟鬼君の攻撃を避けながらやらなくちゃいけない。もし失敗すれば…………!
地下1階、半壊した迎賓の間。
ソーマは琥珀の力で宙に浮き、
翔はスキルで空中をキックして宙を浮いている。