19話 ヴェイルノートの涙
文字数 4,627文字
秘密の部屋。
轟鬼は、困惑する人々を先導していた。
ヴェイルノートに向かって呟く轟鬼。
その声は小さく、寂しげだった。
……。…………。
…………………………。
…………。
あぁ、羨ましい……。
もう少し。もう少しだったんです…………。
数十年前。
ゲノンムルグ城。
ゲノン帝国研究所職員になってから10年。
やっと念願のゲートが完成したばかりで居ても立っても居られなかった私は、アストリア皇女と手を繋ぎ、日本へ辿り着いた……。
『……あぁ失礼。私としたことがつい浮かれてしまいました。
私は様々な世界、様々な時代に興味がありまして、その世界に行けないものかと研究をしていたんです。
世界とは素晴らしい!
私達が当たり前だと思っているものが全く通じない事がある。不便だと感じることもある。しかし、だからこそそれぞれの世界には"良さ"がある!』
アストリア皇女の顔色が悪かったのは前から気付いていた。
私は疲れさせてしまったのか、慣れない土地だからか、そんな事を考えていた。
『言ったじゃないか。要らない物が多いんだ。私は予め決められたステージというのが嫌いでね、自由に削り自由に付け足し、自由な世界を作りたいんだ。
ともかく、特殊能力を与えた後はどこでも構わない、この世界のどこかに飛ばしなさい。後で捕獲した時に"アレ"を回収すれば、この世界も、日本も、未知の世界さえも我が国の物。期待しているよ、ヴェイルノート…………。』
…………。
その後、皇帝が天変地異を起こした事、そして皇帝に言われた事が信じられなかった私は……。
『あのね、アンタとはもう何年も研究所の職員やってんだよ?こんな話聞かされて黙ってるわけないじゃない?
しょうがない、アタシは日本から来た人間を監視しといてやるよ。間違っても皇帝に刃向かう事なんてないようにね。必要ならアタシが幹部になったって構わない。』
『ついでにアンタを極悪非道のボスって事にしといた方が良さそうだね。まぁ、幹部をまとめる時点でそういう認識になると思うけど。
でもこれだけは忘れんじゃないよ。
アンタの研究は成功した。日本と繋がるゲートを作った。そのゲートがこれから起きる悲劇の始まりになる。』
……。………………。
私は認められたかった。
私は人の心を癒したかった。そのキッカケになるかもしれないと、憧れの世界と繋げたかった。
それだけだった。
しかし、皇帝の言う計画は始まった。
日本の至るところにゲートを召喚し、こちらから何もしなくても自動的にゲノンムルグ城へ人間が来る状態を作った。
皇帝は喜んだ。「自由に姿を変える力」を創り出し、次々にやってくる人間達の姿に変えて遊んでいた。
私は考えた。
皇帝の目を欺くのは難しい。
私の心も見透かしているだろう。
そこで私は幹部をまとめる者としてなりきる事にした。
悪逆非道のゲノン帝国幹部。
その幹部達をまとめる表向けのボス。
それが私、ヴェイルノート。
私はもう研究員ではない。
あの日、皇女と日本に行った時話した人間がゲートをくぐってこちらに来ようとも、最後には殺すだけ。
私はこの意識を強めた。
私自身が皇帝であるように、
私自身がこの世界の闇であるように。
そうしているうちに皇帝に気に入られ、皇帝から強大な力と闇の力に覚醒する姿を与えられた。
……しかし、それも今日で終わりそうだ。
私がこのまま起きなければ、力を解放しここから脱出した異世界人を追いかけなければ、このまま倒れていれば、もう殺さなくてもいいかもしれない。
終焉の轟鬼としての力は予測以上、思ったより身体が動かない……。
……異世界人にスキルを与え、そのスキルで死ぬのならいいかもしれないと、ゲームに出てくるような力を与えてみたが……まさか皇帝が与えた力で私が死ぬ事になるとは思っていなかった……。
しかしゲートが問題だ……。
私には出来ない……。
…………もしも、異世界人の誰かがゲートにたどり着いたのなら、
そう、幹部の1人ハヤトがやろうとしたように、あのゲートを……。
なぜですか……!
なぜあなたは笑顔になれるんですか…!
私はあなたをこの世界に巻き込んだ…それなのになぜ……!