#26 【襲来】裏切者の名は
文字数 4,985文字
アーリー城。
食堂。
メイは寝室を後にすると、サラとカレンと合流。
勇輝との再会、繋がりについて説明した。
……自身が異世界人である事を隠して。
なるほどね……例のパイナップル頭の異世界人の男があんたの兄さんの友達だったと……
まさか寝室で再会するなんて思ってなかったけど、思わぬ情報を得たぜ。
わかってるよ、「事情はどうあれ侵入者は侵入者」。
あたしは帝国の一員、これも運命だと腹決めたから大丈夫だ。言わなくてもサラの気持ちは伝わってる。
「アイツとコイツは友達」、お互いに一致したんだ。後戻りできねーよ。
ったく、異世界人ってのはめんどくせーなオイ。異世界人じゃなくてよかったぜ。
あ、カレン、ココア飲むか?
気使わせちまったな。わりぃわりぃ。あたしはこの通り平気だから気にすんな。
何ショゲてんだよ、らしくねーぞ?
ちょっと休憩したら戦闘の準備だ!
はぁ……
どうせ明るく振る舞うならもう少し上手くやってくれる?動揺してるのバレバレだってのに、かっこつけちゃって。
なんの事だよ?動揺なんてしてないぞ?あたしは誰かさんに散々言われたから覚悟決めただけだ。
……じゃあ、あたしからも1つ2人にお知らせがあります。
地下1階で聞いた実験、そのために集められた生き物の中に「もみじ」っていう狸の女の子がいたんだけど、その子は逃したわ。理由はなんとなく嫌な予感がしたから。
そのようね。
でも、たぶんまだ城内にいると思うの。あの子に出口までのルート教えてあげるべきだったわ。失敗した……。
カレンにだってできることはあるはずだ。少なくとも、こうやって普通に話せてるんだからそのままでいいと思うぜ。
そうね。
さてと、そろそろ動いた方がいいかもしれない。どうする?
そうだな。侵入者が1人いたってことは他の侵入者も城内のどこかに潜んでるはずだ。
天井に監視カメラ…!?じゃあ声はスピーカーから!?
あれあれー?メイちゃん、今何て言おうとしたのかな〜?
「戦意のない手下」って言ったわね?帝国の関係者ってこと?
幹部〜?
あはは!ウチの国は〜帝国兵、幹部がいるけど〜実は"その上"がいるんだよ〜?知ってた〜?
その通り♪
ウチの組織はね〜?幹部のくせに使えないヤツとか〜、余計な考えを持っちゃったヤツとかを消すためにあるんだよ〜?
たとえば〜……♪
身構えるサラ、メイ、カレン。
すると、食堂にビジョンが現れた。
画面には、助けたばかりの寝室の兵士と、ウイイイイイイインと鳴るドリルが映っている。
よく見ててね?
どこかの3人組が余計な事をしちゃったせいで〜、地下1階を見張ってた使えない兵士は〜、勢いよく回転するドリルで〜……♪
ウイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
ギャリギャリギャリギャリ
ん?ん〜?
なに〜?その顔……?カメラ目線で睨まれたの初めてなんですけど?
一応ゲノン帝国幹部の手下なんだから、非情になってもらわないと困るんだけどなぁ〜?
……!
まさか……そのカメラ、地下1階にも寝室にもあるんじゃ……!
正解だよ♪
君達3人が計画を知った事も、さっきの兵士を休ませた事も、狸を逃した事も、侵入者の事も見てたし聞いてた……♪
もちろん、誰かさんがウソをついてる事もね……♪
わかってるでしょ?
それは君達次第。幹部の手下らしい行動をしてくれないと、皇帝直属の組織としては見過ごせないんだよ♪
その通り!ウチの他にもいるよ〜?
例えば、異世界人とか、一流のスナイパーとか、何考えてるかわかんない根暗とか♪
まぁ、今回は警告しに来ただけだから。
気をつけた方がいいよ?ウチが何もしなくても他の誰かは何かするかもしれないし、意外と近くにいるかもしれないから♪
じゃあ、今までの行動は兵士1人の命で許してあげるってことで、何かを見ても聞いてもしばらくは何もしませーん♪じゃあね♪
ふざけんなよ、クソ……!
「近くにいるかもしれない」なんてアリかよ……!
帝国を監視する組織があるなんて…
自分から望んで帝国と関わったわけじゃない人、洗脳されている人も私達と同じように監視されてるんでしょうね………
”ボス”に言いつけても意味ねーだろうな…
帝国を抜けるわけにもいかねーし、なんで”あの時”幹部の手下に……!
ああああああああ!クソ!!胸糞わりいいいいいいいいいいいいいいい!!!
****
アーリー城。
1階。カプセルのある部屋。
こころ、もみじ、ダルは、こころの記憶が戻ることを期待しつつ、脱出に使える物がないかどうか調べていた。
う~む…地図を見つけたんじゃが、どうもおかしい…この部屋が載ってないんじゃ…
そのようじゃな。1階には豪華な部屋、食堂、寝室、エントランス、倉庫、更衣室、大浴場があるようじゃが、この部屋は入っておらん。
豪華なお部屋って何だろう?
う~ん…お城の豪華なお部屋だってことは…玉座でしょ、王様のお部屋でしょ、お姫様のお部屋、それから………
わかった!宝物庫!!宝物庫だよきっと!!お宝いっぱい!!
金貨とか宝石とか、それから金ぴかの剣、宝箱、そういうキラキラしたお金の価値のあるものだよ!お店に売りに行ったら大金持ち間違いなし!!
うん、そうみたい。
1+1は2とか、そういうことはわかるよ!車とか学校とか空とか海とかもわかるし、ギルドとかジョブとかも!
でも、ウチは今まで何してたのか~とか、好きなものは~とか、そういうのはわかんないかなー。
こころさん、物知りです!お宝なんて知らなかったです!
まぁ、実際に見たことがあるわけじゃないんだけどね。
海賊の映画とかアトラクションとかゲームとかに出てくるだけ!
ふふ♪アトラクション、だよ♪
脱出ゲームにも出てくるんじゃないかなー。
例えば「ごちゃランパニック!失われた」――
……!
おじいちゃん……ウチ、1つ思い出したかも……
えっと、男の子がゲームをしてる動画を見た事がある気がするの!
ウム!それは異世界の娯楽の1つ、ゲーム実況というものじゃな!
脱出に関係するかはわからんが、自分の事を1つ思い出せたのは事実じゃ!よかったのう!
うん!
宝物庫→お宝→脱出ゲーム→ゲーム実況動画ってなるなんて思わなかっ……
あっ!ってことはウチ、異世界人なのかな!?
こころさんすごいです!じゃあ不思議な力を使えるんですか!?
異世界人というのは、スキルという不思議な力があるって先生が言ってました!
ウム。異世界人は元々この世界の住人ではなく、スキル自体存在しない。
じゃがこの世界にやってきた者は不思議な力を持っているんじゃ。
”あの時”のこころはスキルを使わなかったからのう。
どんな能力なのか気になるぞ!
むむむむ~……いでよ水ー!いでよ炎ー!いでよ雷ー!
体よ大きくなれー!
記憶よ戻れー!
鳥よ歌えー!
女神よ微笑めー!
これから何が起きるか教えてー!
敵に幻を見せてー!
瞬間移動させてー!
透明になれー!
白馬の王子様、ウチを迎えに来てー!
来るもん!おじいちゃん乙女心わかってないなーもう!
『絶対あの人にだけは知られちゃいけない。
だってあの人、今も一緒にいるんだもん。ずっとこっちを見てる。』
(今の、ウチの声だ…しかもウチにしか聞こえてない…
どうして思い出しちゃいけないの?今も一緒にいるあの人って誰…?)
『あの人は味方じゃない。
帝国の幹部の人より上、皇帝直属の組織…。
もし思い出したらすぐに忘れて。じゃないとウチは…』
はぁ…はぁ…!な…なんでも、ない…!なんでも、ないから…!
ウチ、あっちの方を調べてみるから2人はこの辺りにいて!!
(さっきの、何だったんだろう…!?急にウチの声が聞こえて……!
もしかして、ウチのスキル…?さっき言った中にあったのかな…!?)
『体よ大きくなれー!
記憶よ戻れー!
鳥よ歌えー!
女神よ微笑めー!
これから何が起きるか教えてー!
敵に幻を見せてー!
瞬間移動させてー!
透明になれー!
白馬の王子様、ウチを迎えに来てー!』
(……よし、もう一度聞いてみよう。
今度は目を閉じて………。)
そう言うと、こころはカプセルに背を向けて体育座りになり、目を閉じる。
すると今度は、声だけではなく目の前に3人の人間が喋っている光景が見えた。
『ごめんね、ジャック君。ボクは味方じゃないんだ。帝国には幹部よりも上がいてね、ボクはその中の1人なんだ。』
『運命は変えられない。諦めた方がいい。全部終わり。』
『待たせたね。
ジャック、君のスキルは皇帝に渡すんだ。
死んでもらうよ。』
(今の何……!?
女の子が2人、男の人が1人……!幹部よりも上……!死んでもらう……!?)
(それにさっきのウチの声……!
××に殺されるって……本当なの……?あの人、ウチの事狙ってるの……?
ウソだよね……?)
(…………。
ともかく、ウチには何かのスキルがあるはず……。過去なのかこれから起こる未来なのかわからないけど、きっと聞いたこと、見たことはヒミツにしておいた方がいい!)
「うん」と頷くこころ。
そんなこころを遠目に見て不気味に笑うダルの姿があった。
****
アーリー城。城門。
1人の青年が空を見上げる。
ふぅ、やっと着いた。いつ見ても立派な城だね。
そこの君、警備ご苦労。ピリカはどこにいる?
ピリカ……?
という事はまさか、あなたが…!
お前達!!整列しろ!!
あーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
兄ちゃん待ってたよー!
よかった。じゃあ行こうか。
今はどんな状況なんだい?
裏切り者が3人増えたよー!
一応幹部の手下なのに困っちゃうよねー!
あ~それと、牢屋にモンスターみたいな人間がいてね!おもしろいの!
確か異世界人のゴラゴラン、グラリオ、大文字タケルっていうのと同じジムに通ってた女の子で、ムキムキマッチョですごいんだよ!
へぇ。あそこの連中、女もいるのか。
よし、一度会いに行ってみようかな。
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