#29 【恐怖】ピリカ、始動。
文字数 4,397文字
コータローによって眠らされたビット、気絶したシャルロット。
コータローは腕を捲り、2人の足を持つとズルズルと引きずる。
表情を変えず、とある部屋の扉を開けるコータロー。
ビットとシャルロットを軽々と部屋の中にブン投げ、ビットのポケットから鍵を奪う。
ニヤリと笑い部屋を出ると、ゆっくりと扉を閉める。
「弾薬庫」と書かれた扉を。
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アーリー城。
1階。カプセルのある部屋。
中に何も入っていないカプセルを見つめ、「う〜ん……」と悩むこころがいた。
「はぁ……」とため息をつくこころ。
こころにはもう1つ気になるものがあった。
それは……。
ダルが気になってしまいチラチラと見てしまうこころ。
「あんまり見ない方がいいよね」と頷き、目の前のカプセルに視線を移す。
しかしその瞬間、目の前のカプセルの向こう側にダルの顔があった。
(よし。
……たぶんウチのスキルは過去にあった事を見たり聞いたりできるスキル……。
ってことは「思い出しちゃダメ」とか「××に殺される」とかはウチが生きてた時の言葉……。
もしそうならウチの死因は"あの人"……。
それなら聞いてみよう。もう1人のウチに。
きっと教えてくれるはず。)
目を閉じるこころ。
カプセルに手を当て、耳を澄ます。
すると、3人が話している映像が見えた時と同じように、別の映像が見えた。
場所は今こころ、もみじ、ダルがいるカプセルのある部屋。
帽子を被った少女、ピリカが嬉しそうに部屋に入ってきた。
続いて、こころの思い出したいつかの記憶にいた少年が兵士に捕まった状態でやってくる。
『あはは……♪
あのねジャック君、このお城にはとってもかわいかったはずなのにとってもかわいそうな"失敗作"になっちゃった動物達がいるの。
かわいそうでしょ?
このお部屋は、そんなかわいそうな失敗作が暴れないようにお家を並べたもの。
この意味、わかる〜?』
『まずは頭だよ頭!
頭を割って中身を見るの!脳みそを混ぜ混ぜ!こねこね!ぐちゃぐちゃ!!両目も潰してはいサヨナラ〜♪
最高にヤバいでしょ!?最高に気持ちいいんだよ!?
あはは!あはははははは!あはははははははははは!』
――
すると、もみじが心配そうにこころをチラチラと見る。
こころが小さく笑みを浮かべると、もみじはこころの元に走って抱きついた。
もみじの小さな胸で小さく涙をこぼすこころ。
安心と恐怖の中で、1つだけ確信する。
それは、兵士とピリカ、ジャックが部屋に入った時、ピリカの言ったセリフ。
そう、わずかにダルの服によく似た白い布がカプセルの近くに落ちていた事。
****
アーリー城。
3階。廊下。
ジャック組や勇輝組、メイ組、その誰にも気付かれずにニヤニヤしながら廊下を歩く少年がいた。
その名は、コータロー。
ジョブ、DJ。
異世界人、男。
シャルロットとビットを弾薬庫に閉じ込めた少年の影は、悪魔のように揺れていた。
――3階。
とある部屋。
ガチャッ
すると、コータローはタコのようにぐにゃぐにゃと動く。
10秒ほど待つと、ピリカそっくりの少女に姿を変えた。
パソコンの画面に映る監視カメラの映像を見つめ、うっとりした表情でハァハァしながら「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」と呟くピリカそっくりの少女。
ひと通りジャックとの危ない妄想をすると、再びコータローの姿に変わり、部屋を出て行った。
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アーリー城。
2階。廊下。
静かなはずの廊下をドカドカと走り、
多くの兵士をなぎ倒し、
異世界人ジャックを探す、
金髪の巨体、九重タイガと肩にしがみつく勇輝がいた。
その瞬間、巨体一時停止。
勇輝は焦り、落とされないよう強くしがみつく。
しかし、あろうことか巨体の首を掴んでしまった。
慌てて巨体の首から手を離す勇輝。
その瞬間、走っていた時のスピードのまま前にスポーンとすっ飛んでしまった。
驚く兵士に向かって叫び、空中をボーリングの玉のようなスピードで飛ぶ勇輝。
巨体は何かを閃いたようで、ポーズをとりドヤ顔をして……?
空中を飛んだままツッコミをかます勇輝。
しかしその瞬間、目の前にガタイの良い兵士がやってきた。
その瞬間、
金髪の巨体でもタイガでもない化け物は、悪魔のような咆哮と共に自身を殺人的な肉体へと膨張。
飛んでいる勇輝をそのまま殴ろうとしていた3人の兵士の顔面を潰すようなパンチを繰り出し、兵士の体はベコッとへっこみ天井にめり込んでしまった。
そして、廊下の電気や窓ガラスはそのあまりの力に耐えきれず壊れ、廊下には倒れた兵士はもちろん電気の破片が散乱。
試合終了。
ガッツポーズをとるMONSTER。いや、タイガ。
彼の潰したものは兵士、電気、窓ガラスだけではない。
廊下の天井に仕掛けられた監視カメラも粉々に壊してしまった。