25話 再会
文字数 3,550文字
ゲノンムルグ城。
3階。
必死にヴェイルノートを呼ぶハル。
しかし反応はなく、同じ顔、同じ体勢をしている。
博士はいつも、無茶ばかりする人でした。来る日も来る日も「なんとかなるかもしれない」、「良くなるかもしれない」、その日々には何の保証もない。
はっきり言えば無謀。馬鹿正直とはよく言ったものです。無防備な格好で戦場を駆け抜ける少年と何も変わらないのですから。
……正直言って、ここからは本当に危険です。この城のタイムリミットもそうですが、無事脱出できたとしても、博士を助ける以上元の生活には戻れません。
ハルさん。他の仲間の安全も確認できず、冒険も平和も全て捨て、ゲノン帝国皇帝のいる闇の中心に行く覚悟がありますか?
もちろん現実世界へ帰ってもいいんです。
僕にはあちらとこちらを繋げるゲートがある。あなたが望むなら、あなたと同じ異世界人達を全てあちらへ転移させる事を約束しましょう。
もし戦うというのなら、
一度でも死んでしまえば、蘇生する方法も現実世界へ帰る方法もありません。
博士の用意した条件もゲートも魔法も奇跡さえも、全て皇帝の闇に消え行くでしょう。
皇帝は元々日本で住んでいた人間。
五知谷市に住む人間をこの世界に放り込んだのが全ての始まり。兄弟、親戚、お孫さんの友達、夫、ハルさんと関係のある人物かもしれない。
…それでも戦えますか?皇帝を殺せますか?
でもね、だからこそ救ってやりたいって思うんだよ。
爺さんなんて「美女だらけのハーレム異世界にしてやればうんぬんかんぬん」って言っててねぇ、笑っちゃうだろう?
ラブ・フォーエバーで真っ二つにしてやろうかと思ったよ。はっはっはっは!
その通り。
実はあの黒いハートこそが、博士の体の中で覚醒してしまった「皇帝の闇の姿」の本体。
従って、再び博士が動く事よりもあのハートが動く時がこのゲノン帝国のタイムリミット。
……もって、あと50分でしょうか。
ここで問題となるのは博士の体です。恐らく心に大きなショックを受け、いわゆる仮死状態にある。タイムリミットまでは動きませんが、今の状態がこのまま続くのは良くない。
う〜ん…博士が闇の姿になったのには何か原因があると思うんです。物理的ダメージではなく、例えばショッキングなモノを見たとか。
彼の名前は小鳥遊轟鬼。異世界人。
ずっと帝国を幹部をまとめる者としてなりきっていたヴェイルノートと戦うことで、元の姿に戻してくれた恩人だよ……。
今はもう、ヴェイルノートが現実世界へ帰すゲートを使ってこの世界にはいない。
その瞬間、ゴワスは魔力を込めて床を殴る。
すると床に穴が空き、2階の廊下が見えた。
ゴワスは咄嗟に2階に飛び降り、どこかへ入って行く。
****
2階。
ゴワスは1人、廊下を歩いていた。
これでいいのよ……。
ヴェイルノートを助けるのは良い、けれどその先一緒にいてどうするの……?戦闘力も無いじゃない……。
それにアタシも闇の姿を持ってるのよ……?
研究所はもう無いから、この城と一緒に沈むしかないわね……。
かつてのグラスオーヴィの日々、ヴェイルノートとの研究の日々を思い出すゴワス。
……背後から近付く足音にも気付かずに。
実はヴェイルノートと同じ帝国の研究員でした、しかも皇帝から闇の力を与えられてます、ヴェイルノートと同じように大暴れするかもしれません、これから武器も持たずに皇帝を倒しに行きます、もうあの頃のようにグラスオーヴィで笑う日々には戻れません……。
笑えないよ……。本当に……。
その瞬間、ゴワスの背後からゴッツァンが叫び、ゴワスの顔面に強力なパンチをした。
ゴワスはすぐに振り向き、混乱している。
ゲノン帝国滅亡まであと
30分。