1話 ひよこアイドル
文字数 1,831文字
ソードマスター、バウンサー、メイド、バーサーカー、ヴァルキリー。
ジョブの中には、あまり聞かないような名前のものもある。
その中でも、踊り子とスーパースターの上位に位置するジョブが女性に大人気だった。
みんな~!今日は来てくれてありがとう~!いっぱい楽しんでいってね~!!
ここ、「クラスタ」は時代の最先端を行くといわれる街。
オシャレなギルド施設や、豪華な宿屋、巨大なドーム状の施設や高いビルのような施設が立ち並ぶ。
この街の最大の特徴は、ディープな趣味を持った、コアな人間が集まるエリアがある。
そんなエリアを行き来する彼らの目的は、なんといってもアイドルの女性のライブだ。
近年では、野生のモンスターもアイドルに魅了され、人間を襲うことなくライブを楽しむモンスターも少なくないため、ライブ会場ではモンスターの出入りも許可されていた。
いやぁ~!今日もノドカちゃんは輝いていたなぁ~!ファンでよかった!
お?新入りか?何のモンスターなんだ?まぁいいや!ライブへようこそ!これがサイリウム、これを振ってアイドルを応援するんだ!
お疲れ様~!ノドカちゃん、今日誕生日だよね?おめでとう~!
ま、マネージャーのあたしがついてるからね!おめでと!ノドカ!
ちょっと!そんな言い方ないんじゃないですか!?
私達はみんなに夢を与えるアイドルなんですよ!?
わかってるわよそんなこと。でもね、アイドルというジョブになった以上、私達アイドルにとっての敵は同じアイドルなの。他のジョブならギルドに行って、パーティを組んでモンスターを倒しにいくけど私達は違う。一緒にパーティを組む仲間になんていないの。今ここにいる誰かがこの先有名になれば、他の誰かが有名になれなくなる。いい?アイドルはいつだって戦場にいるのよ。…じゃあね。
しかし、そういった事を気にせず活動する、人気の高いアイドルがいた。
「星乃未来(ほしのみらい)」。なんとも不思議な、頭にヒヨコを乗せた少女。
ファンからは「らいちゃん」と呼ばれている。
今まさに、ライブが終わり楽屋に戻ってきたところだ。
【未来】
いやー終わった終わったー!
第9回アイドルフェスの告知もできたし、順調順調♪
無事にライブを終えた未来は、満足気にソファに座り大きく背伸びをした。
私物の小さなリュックからヒヨコのエサを取り出し、頭の上のヒヨコにエサをあげる。
未来は、リュックからタブレットを取り出した。
未来は、現実世界からやってきた少女で、もともとはタブレットを使った動画配信サービスで注目を集めていた。
タブレットは現実世界から持ってきたものだ。
なんで現実じゃないのに使えるのかわかんないけどやっぱ便利だよねー☆
あっでも、この街の中じゃないと使えないんだっけ…忘れてた…
そう言うと、カメラのようなアイコンをタップする。
これは、スマホのような道具を使ってリアルタイムに動画を配信できるアプリだ。
動画を配信したり、他人が撮っている動画を視聴することができる。
不思議なことに、テレビやタブレットなどの道具はこの街、クラスタでは珍しくなく、
冒険者ギルドのクエスト一覧表、酒場のメニュー表、施設の監視カメラなど様々な用途で利用されている。
また、クラスタではタブレットが販売されておりお金さえあれば誰でも利用することができる。
未来は、視聴と書かれたアイコンをタップ。
するとちょうど、未来のいるライブ会場を特集する番組がやっていた。
私は今、ライブ会場に来ています!
では、ヒヨコアイドルこと、星乃未来さんの魅力について聞いてみましょう!
えっこれテレビですか!?いやぁ照れちゃうなぁ!
らいちゃんの魅力ですか!?そりゃあもちろん、安定のかわいさですよ!
あの子の笑顔さえあれば、ドラゴンが現れたって倒してやります!エヘヘ!
自慢気にドヤ顔をキメる未来。
すると偶然、画面の端っこに映る少女に気付き、何かを思い出したかのように飛び上がる。
やっば!ピーちゃんごはんは…食べたね!
んしょ…急がなきゃ!
あっという間に着替えると、荷物をまとめて楽屋を飛び出していった。
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