14話 轟鬼と翔
文字数 3,192文字
カタカタ……カタカタ……
静かな部屋に、オズマがキーボードを打つ音が響く。
モニターには、各階のフロアマップが映し出されている。
ふいに、ローランが呟いた。
一行は、周りを警戒しながら廊下に出ると誰もいないのを確認。
目の前に4つのエレベーターが並んだ。
すると、1つのエレベーターが降りてきているのがわかる。
チン。
「B4」と書かれたボタンが光り、エレベーターの扉がゆっくりと開く。
そこには、大量の血を流し、頭にツノが生え、貴族のような服を着た男……
そう、ヴェイルノートにやられたはずの、
ディアスの王子ヴェルグ=コアが倒れていた。
****
王の間。
ハヤトを炎の拳で焦がした男がいた。
すると、部屋の扉がノックされた。
兵士が来たようだ。
鬼のごとく全てを焼き尽くす業火の地獄。
王の間、扉、壁は一切傷つかず、兵士のみが跡形もなく消え去った。
――彼はソーマ、琥珀の兄。小鳥遊兄弟の長男。
ソーマと琥珀が現実世界から失踪する前、
日本、五智谷市(ごちやし)の高校から失踪した不良生徒。
当時、小鳥遊轟鬼といえば他校の生徒も驚くほど有名。
授業中にタバコを吸う生徒やカツアゲをする生徒も、名前を聞くだけで顔が真っ青になるほど恐れられていた。
しかし、轟鬼本人は怯えていた。
轟鬼は、頭を抱えて倒れる。
そう言うと、ヴェイルノートは黒いゲートを召喚。
轟鬼の体を空中に浮かし、共に入っていった。
……かくして、誰にも知られず失踪した轟鬼。
世間は、"相次ぐ失踪、消えた問題児"などと報道し、轟鬼の名は知らぬ間に広まっていった。
しかし、ヴェイルノートが現れた高校にただ1人、失踪の一部始終を見てしまった高校生がいた。
彼の名は、丸井翔(まるい かける)。15歳。
高校の生徒の中でただ1人、轟鬼を慕っているソーマのクラスメイト。
好きなものは轟鬼、琥珀、熱い男。
嫌いなものは辛いもの、卑怯な人。
琥珀に淡い恋心を抱く、どこにでもいるピュアな少年だ。
彼は走る。どこまでも。
学校の校庭、教室、自宅。
2階にある自室に行くため、ドタドタと階段を登る翔。
「おやつあるわよー?」と声が聞こえても、彼は止まらない。
バタンッ
自室に着くと、マッチョの男性がポーズをとったポスターの前でピタッと止まった。
翔が大ファンになった熱い男、ゴラゴランの笑顔の前で、パンパンッと手を叩き、目を瞑る。
その時、ふいに、誰かの声がかすかに聞こえた。
気がつくと、ゴラゴランのポスターが光っていた。
とても明るい、眩しいくらいの光だ。
そのまま吸い寄せられるように、ポスターに向かって歩き出す翔。
――こうして、眩しい光の中、自室から失踪した男子高校生、翔。
彼は今、ただただ広い異世界で、轟鬼を探している。
たった1人の友達を、取り戻すために。