13話 進め!
文字数 3,470文字
すると一瞬、ハヤトの口が動いた。
オズマが偶然気付く。
ハルはじっと見つめる。
ハヤトの口が微かに動いていた。
ハルはラブ・フォーエバーをひと振り。
思っていたよりも簡単に魔法を打ち消すことができた。
ハヤトは、虚ろな目のままチラッと視線を逸らした。
その先には琥珀がいる。
ハヤトは無言でブラッドネメシスを振りかぶったソーマを見つめる。
その表情は、どこか笑っているように見えた。
その時、パキッ パキィイイインッと何かが割れるような音がした。
ハヤトは微動だにせず、ただその場に立ち尽す。
…繰り返す!
ソーマは目を疑った。
ハヤトはソーマ達の方を向いて手を上げる。
すると巨大な炎の玉が召喚された。
しかし、ソーマは気付く。
ハヤトには攻撃する気がなく、さっきよりもはっきりと、口が動いた。
気がつけば、ソーマの目には涙が溢れていた。
震える手を抑えつつ、ハヤトに背を向け、部屋の奥の方を向く。
何故だろう、目の前がよく見えない。
おい何をしている。まさか攻撃しないつもりか?
くだらん!それでも幹部か!あんな異世界人など信用できん!!我が炎の拳で塵にしてくれる!!
再び戻ってきた謎の幹部。
自分の体に炎を纏い、獣のように叫んだ。
全てを焼き尽くし、全てを叩き潰すその巨体が、ものすごいスピードでハヤトへと迫る。
察したオズマは、急いでハヤトからカギを受け取ると全速力で走り出す。
その言葉で走り出すローラン、メルトン、ソーマ、ハル。そしてオズマ。
ソーマは様々な想いが重なり、泣き叫んだ。
なんて弱いんだろう。なんて情けないんだろう。
友達を救えなかった悔しさを胸に、ただただ全力で走る5人。
後ろで起きる炎の魔法と炎の拳の爆風で吹っ飛び、そのまま部屋を抜け出す事に成功。
地下4階の部屋の先であるエレベーターホールへたどり着いた。
…………
まるでクレーターのように黒くへっこんだ床。そして壁。
黒焦げになり、見るも無残な兵士の死体。
そして――
傷1つつかず、ハルに狙う幹部と、
衣服も体も傷つき、倒れたハヤトだけが、部屋に残された。
――研究所。
廊下。
全身が傷つき、血まみれになった男が血を吐きながら歩いていた。
男は、エレベーターを見つけて乗り込むとボタンを押して座り込む。
****
研究所。
地下4階の部屋の先、エレベーターホール。
4つのエレベーターが並び、中央には柱が建っている。
ローラン一行は部屋を見つけ、扉の鍵を締める。
ソーマは琥珀を下ろしてあげると、ブラッドネメシスを見つめた。
そんなソーマの頭を、ハルが優しく撫でる。
一方オズマは、ハヤトが持っていたカギを手に、部屋にあったコンピューターのキーボードをカタカタと叩いていた。
その正体のカギを握るのが"世界の繋がり"。それを断つことができれば、幹部達は力を使えず弱体化する…。これなら行けるよ!幹部を倒せる!!
四つん這いになり、拳を握るソーマ。
深い自責はどこまでも心を蝕む。
琥珀もまた、涙を流していた。