21話 ゲームオーバー
文字数 3,394文字
ここは妖狐のエリアと悪魔のエリアの境界線の川。
ルト達は重い空気の中、橋を渡ろうとしていた。
(まずい…皆の心がバラバラになっているようだ…ここは私が……!)
皆!大丈夫だ!!奪い返すものが増えた、ただそれだけじゃないか!!力を合わせれば何の問題もないさ!!そうだろ、アルベルト!!
あの後…シルハイドの奴、ダスターと兄貴を連れて植物のゲートを使って消えちまった……。
プラントのエリアに行って必ず倒そう!!
どうしてヴェルグがあのような姿になってこの国にいるのかはわからないが、信じていれば大丈夫!元気を出すんだ!!
ほら、ここからは悪魔のエリアだ!
皆の元気を出すために、いつものヤツを一発かましてやろう!!
私の胸のさきっちょの名前はフルーツポンチ!そして、アルベルトは~?
そう!そうだアルベルト!!
はははは!聞いたか、サーニャ!私達はいつも通り、しょうもない下ネタを言って盛り上げるのだ!!
はいツッコミ!!
おもしろいじゃない!フルーツポンチとフルーツバスケットなんて、どんな乳首してるのよ~?あはは!
グラリオは驚く。
グラリオの目の前にセクシーな格好の女性が立っていた。
女性は、グラリオの体と密着するとグラリオの胸を服の上から触る。
いい体してるじゃない♪あなたのフルーツポンチ、どこかしら?鎧じゃわからないから脱いでくれないと…♪
【デミア】
アタシはデミア。スタイル抜群のボディーと”デバフ”が得意な女の子♪
悪魔のエリアへようこそ♪
グラリオは慌ててルト、ココ、サーニャ、ロキ、アルベルトに注意を促す。
しかし、周りには霧が立ち込めていてグラリオとデミア以外誰もいない。
ねぇ、アタシ思うんだけど…もう戦わなくていいんじゃないのかしら?親友を助けなきゃ、奪い返さなきゃ、みんなを守らなきゃ、そうやって1人で背負う必要なんてないじゃない?
もういいじゃない♪ほら、体の力を抜いて…♪アタシとイイコトしましょ?さぁ、目を閉じて…♪
(くっ…!これは幻…!皆目の前にいるはずだ!!手を前に出せば誰かが…!)
あん♪アタシの胸、揉みたいなら言ってくれないと~♪
…ほら、やわらかいでしょう?
いっぱい揉んでいいのよ~♪減るもんじゃないし、このまま堕ちちゃお…♪
霧の中をデミアと密着したままふらふらと歩くグラリオ。
(体に力が入らない…!まるで力を吸い取られているようだ…!
皆は大丈夫なのか…!?)
****
一方ルト達は、消えたグラリオに動揺していた。
どうなっておるのじゃ!?悪魔のエリアに着いた途端、グラリオが消えた…!?
………っ!
仕方ねぇだろ!?オレだって兄貴と会えたのに帝国の仲間に操られて気が狂いそうなんだよ!!ダスターの事も兄貴の事も異世界人の事もてめぇで何とかできんのかよ!!!言ってみろ!!!
アルベルト、落ち着くのじゃ!今は皆動揺しておる!ロキだけではない!冷静になるべきじゃ!!
お前がこの先に進めないのはグラリオがいないからだろ!?だが問題ねぇ!このエリアの敵をブッ殺すなんて簡単だ!悪魔だろうが魔族だろうが全部殺してやる!!オレだけで十分だ!!!
アルベルトさん!落ち着いて下さい!みなさんで力を合わせて――
今……何て言ったにゃ……?要らない……?
今の言葉……冗談に決まってるよね……?いくら怒ってたってそんな事本気じゃないって信じてるにゃ……ね、怒らないで笑おう……?笑ってにゃ……!
アルベルトさん、私も信じています!今は動揺しているだけで、本当はそんな事思ってない!そうでしょう!?私達は仲間なんですから、協力して――
協力!?協力って何だよ!?具体的に何を!するんだよ!!おい!!!
一度冷静になって考えてって言うけどよ!!そんな事して何になるってんだよ!?兄弟、親友、異世界人、全部奪われて落ち着いていられる方がおかしいだろ!?
てめぇもにゃーにゃーにゃーにゃーうるせぇんだよ!!!
グラリオだけじゃねぇ、オレはお前ら全員が邪魔だ。ここからはオレ1人で殺る。
ボク達も要らない、そう言ったよね。もう何を言ってもキミとは分かり合えない。
ああそうだ。オレの邪魔をするっつうならお前らも容赦しねぇ。
ロキ、まずはてめぇからだ。その槍でオレの腹を貫いて殺すつもりで来い。オラァ!!!
拳が黒く変化し、ロキに向かって走り出すアルベルト。
槍を構え、アルベルトに向かって走り出すロキ。
途端に、サーニャは泣きながらロキとアルベルトを止めに入る。
しかし、アルベルトはサーニャを見ると、ロキではなくサーニャに殴りかかる。
(お願いにゃ…!またいつもみたいに……こうやって……!)
アハ♪ムダよ、暴れないで♪ちゃーんと体をくっつけないと〜……霧の中で迷子になっちゃうわよ〜?
胸騒ぎがするんだ!!こんな事をしている場合じゃない!!
あら、そう〜?でも〜……
あなた、要らないみたいよ?
周りには、ルト、ココ、アルベルト、ヴェルグ、ロキ、ゴラゴラン、大文字タケル……
さらには、「異世界転生の話」で出会った高校生ジャック、その親友ミノルの姿があった。
貴様などモフコットに来なければよかったんじゃ。なぜまだ生きておる?
いつも笑顔で気持ち悪いです。そんなに前向きになって何がしたいんですか?早く消えてしまえばいいのに♪
ヴェイルノートに殺されたはずじゃなかったんですか?なんでいるんですか?
な、何を言っているんだ?皆、どうしたというんだ!?お、おい!!
【ジャック】
グラリオさんだっけ?ウメダではありがとうございましたあ〜(笑)さようなら〜(笑)
【ミノル】
あなたのせいで帝国の幹部に殺されたんですよ。わかってるんですか?あなたも死んでください。
お前は現実に帰る必要はない!俺とゴラゴランに二度と近付くな!!!
【ゴラゴラン】
相棒?オレが?
ははは!何言ってる、タケルに近付くなと言われただろ?大体お前……誰だ?
な、なぜだ……!?なぜ皆、私の事を……!?
あ、アルベルト!私だ!グラリオだ!!皆様子がおかしいんだ!助けてくれ!!
グラリオは上を向き、頭を抱えて震え始める。
デミアはそんなグラリオを前から抱きしめ、クスリと笑った。
落ち込む事はないわ。
これが人間の、いいえ、あなたの周りの"仲間"の本音なのよ。皆こう思っているの。知らなかったでしょう?辛いわよねぇ…辛いに決まってるわ……。
でも大丈夫。あなたはもう、戦わなくていいの。前に進まなくていいの。疲れたでしょう?
だんだんと瞼が重くなっていく。
だんだんと力が抜けていく。
本当に居なくていいのだろうか。
私は、もう……。
薄れゆく意識の中で、誰かの名前が頭に浮かんだ。
ゴラゴランとは誰だ……?
私は誰だ……?
何も思い出せない………。
うふふ♪
これで、妖狐のルト、ココ、ロキ、ニャルシーのサーニャ・ニャルキット、ディアスのアルベルト、そして元ゲノン帝国幹部グラリオは終わり……♪残念、ゲームオーバー……♪
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