12話 ソーマの過去
文字数 3,466文字
琥珀の外見は普通の人間のように見える。
しかし、ソーマは違和感を感じた。
体から黒いオーラを発し、目を合わせようとせず、まるで人形のように無理矢理動かされているように見える。
ソーマは何かを思い出し、途端に大声で叫びだす。
――1年前。
ゲノン帝国、蒸気機関車の走る町「シルフラット」。
現実世界にいたはずのソーマと琥珀は、町の隅で倒れていたところを保護され、町の住民と酒場にいた。
『そう。そうなんだよ。蒼真君。』
『私はね、君達の世界が大好きなんですよ。デパートや駅をダンジョンとして世界中至る所に作り、カレーやオムライスなど日常で食べられる料理を発展させ、現代日本では必要不可欠なスマートフォン、寝具や調理器具を"こちら"へ持ってきた……』
『これだけ揃えてもこの世界の住民はあまり興味を示さない。そう、"本物"が足りないんです。本物の人間がいないから現実味がない。そこで登場していただいたのです。
よくあるでしょう?SNSで芸能人の噂をしている人がいて、イマイチ信用に欠ける。
そこで本人の登場です。「私はペットを虐待しました。」マスコミは慌てて報道し、あらゆるメディアで「本当だったんだ」と口を揃えて言う。それと同じです。』
『しかし……これだけではおもしろくない。そこで私は考えたのです。
"現実世界から来た人間を異世界人と呼ぶ"
"我がゲノン帝国の幹部は無敵の軍事力を持つ。そんな我々に立ち向かう勇者こそが異世界人"
まるでゲームのようでしょう?』
その瞬間、琥珀の真下に黒い魔法陣が現れた。
魔法陣は黒い稲妻のようにパリ…パリ…!と音を鳴らし、丸い結界が琥珀を包み込む。
そう言うと、ヴェイルノートは琥珀を包み込んだ魔法陣ごと宙に浮かす。
ソーマは、琥珀ではなくヴェイルノートをじっと睨みつける。
ヴェイルノートに向かって殴ろうとするソーマ。
当然のように姿を消すヴェイルノート。
ソーマは、悪魔か獣か、ものすごい勢いで叫ぶ。
――現在。
全身の震えが止まらないソーマ。
兵士達は、思わず目を逸らす。
すると、ズオオオ…と琥珀の背後から黒いオーラが湧き出る。
そのまま飲み込まれそうになるソーマを、ハルが助けた。
バチィン!
ハルは、ソーマを抱えてローラン達の方にジャンプした。
再びハルの後ろに隠れるローラン達。
渦巻く炎が目の前に迫る。
視線の先に見えるのは虚ろな目になったハヤト。
ハルは刀を構え、炎を打ち消している。
兵士は、被っていた兜を脱ぐとハルに一礼し、全速力で部屋を出る。
その目には、涙が浮かんでいた。