#15 【覚悟】さよならジャックくん
文字数 2,856文字
その日は雨が降っていた。
朝からずっと降り続け、グラスオーヴィの店内は静かだった。
私はソニアちゃんに呼ばれた。
一体どうしたんだろう?いつもと雰囲気が違うようだ。
ライブの時ちゃんと笑えていなかったからかな?ジャック君の事かな?
「しっかりしろ」「何があったんだ」いろんな台詞が想像できる。
ナナちゃんに一言声をかけて、私は誰もいない部屋に入った。
我が主(あるじ)、ソニア様だ……はあ〜元気が出ない…
そんにゃ時は!ウチがなでなでしてあげましょ〜!名付けて癒しのニャルシーフルコース!召し上がれにゃ!
それに、だ……アイザワ…だっけか?どうした?穏やかじゃないぞ?
今の俺はアイザワじゃねぇ。ジーノだ!次はねぇぞクソッタレ!
へいへい、悪かったよジーノさん。
でもおかしいぞ?突き刺さるような殺気が伝わってくる。
今日もお嬢様はいないようだが、いなくてよかったな。僕が子供なら泣くぞ?
それにしても殺気が尋常じゃない。ナナちゃん、水を頼むよ。
いやいらねぇ。言っただろう。此処は楽しむ場なんだ。俺の事は気にすんな。問題ねぇ。
問題あるだろう。それに、言っちゃ悪いがここ最近の小鳥ちゃん、ジャミ子ちゃん、お宅のお嬢様、全員様子がおかしい。何かあるのか?
おい答えろ!なんか知ってんだろ!僕は怒ってるわけじゃない、心配してるんだ!なのになぜ言わない!
僕は知ってるんだぞ…!ジーノ、あんたが殺気立ったのは過去に2度!ライバルのアイゼン・レイヴ、帝国の皇帝だ!僕が何も知らないとでも思ってるのか!
…見なさい。みんな怯えてるわ。喧嘩するなら外でやりな。
じゃないのはわかってるわよ。おっかない声出すのはやめなさい。
ジーノの殺気が何を意味するかは知ってるよ。でもね、ジーノ自身も疑ってるんじゃないのかい?己の能力を。
すまないね。ここは任せな。他のお客さんの接待しておいで。
さて…ジーノ。アンタは対象となる人物が近くにいる、または遠くから狙われているときに殺気立ち周囲に危険を知らせる能力を持つ。間違いないね?
ということは…残念だけどこの店が狙われている可能性があるということだね…
なんだ、それなら話は早いじゃないか。今すぐ帝国を――
皇帝だぞ。みんな殺られちまう。クソッ…せっかく仲間と出会えたってのに。
強大な力に敏感な男、ジーノ…子供の頃、気味悪がられ村から追放。
ギルドからも拒絶され孤独に生きる事を選び戦いの場から姿を消した…人間ってのは恐ろしいもんさ…
でも安心しな、ここにいる皆仲間だと思っていいよ。
おいゴワス。いつになく真面目じゃないか。そんなキャラじゃないだろう?
覚悟がいるって時にバカやってるなんて、ただの死にたがりか悪ガキしかいないよ。
さぁね。とにかく今は落ち着きな。もしもの時は外へ避難しようじゃないか。死ぬのはゴメンだよ。
あなたなんでしょう?私をこの世界に呼んだの。
ねぇ、帝国ってどんなところ?人を殺すってどんな気持ち?どうして彼に近付いたの?
あなたを知ってる。"あの時"私もあのお店にいたんだよ。
彼が転生したって言ったとき、あの後死んじゃったんだってわかった。
私は彼より先にここに来たから知らなかったけど、彼もこの世界に呼んだんでしょう?どうしてこの世界に呼んだの?私の役目は何だったの?
…帝国には秘密の力があります。その全てをひっくり返す、そのために”彼”はいます。
……ここは"あの世界"に憧れた哀れな男が創り出した理想郷の成れの果て。
……私の名は「アストリア」。この少女の体を借りし者。
あなたは元いた世界へ戻る条件をクリアしました。"成れの果て"に居られる時間は僅かです。
えっ…どうして!?現実世界に帰る方法があるの!?条件ってなに!?
他の者達が解き明かす謎を全て明かすことはできませんが、クリアした者には条件を明かすルール…。あなたの条件は、"誰かを好きになる事"です。
他の人間に条件を伝えても無駄です。あなたの条件はあなただけの条件。
私の力が働いている間しか"ゲート"を繋ぐことはできません。
"あの男"に見つかれば、私の力は封じられ元いた世界に戻る事はほぼ不可能。
アストリア…ちゃん、だよね…。
あなたが皇帝じゃないのはわかった。私に時間がないのもわかった。
1つだけお願いがあるの…聞いて、くれる…?
って言ってもねぇ…中は気になるけど、ここがお店である以上、立場的に中に入れないんだよ
あら来たわね?さて2人とも、"あの時"話した通りあまり時間がないみたいよ?このままじゃ帝国のトップがここへやってくる。準備はできてるの?
皆さん、騙しててごめんなさい。オレは異世界人、ジャミ子としてここに置いてもらっていただけなんです
なんだと?じゃあジャミ子なんて女の子はいないのか!なんて奴だ!
顔を上げな。……いい顔してるじゃないか。まぁ、この僕ほどではないが?
いいか少年。お前が異世界人かどうか、女装してたかどうかはどうだっていい。僕らを騙したんだ、責任をとってもらうぞ。
ほんとにタイミング悪いわよね…全員今後何が起きてもいいように覚悟しておきなさい。何も起きなければそれで良しだけど、もしもの時は全員バラバラになる可能性が高いわ。言っておくことがあるなら今のうちね。
ちょっと小鳥ちゃん!?どうしてそんなに泣いてるの!こっちにおいで!それじゃ乙女が台無しよ〜!
("奴"の気配が消えた…?いや、ソニアから漂ってくる気配、これは皇帝のもの…何故だ?今日まで普通の人間だったはず…)
ひとまず安心する一同。
しかし、ソニアへの違和感、小鳥の泣いている姿、緊迫していた空気は全員が不安を抱いた。
果たして、小鳥の願いとは?
次回、#16 【約束】みんなとここで
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