30話 続続・煌の奮闘物語!煌の説得とティアラの過去!
文字数 4,170文字
「宝石が欲しい」。少女は言った。
「お菓子欲しい」。少女は言った。
我が家の敷地の中に宝石を飾り眺められる少女専用の部屋と、お菓子の工場ができた。
「大人になりたくない」。
怪しい薬を密かに開発する裏の人間を脅し、
我が家の敷地の中に身体の成長を止める薬を作る工場ができた。
「大人になりたい」。
今度は、我が家の敷地の中に身体の成長を異常なスピードで進める薬を作る工場ができた。
そうやって何度も何度も
ワガママを聞いているうちに、
ウチの敷地にはいろんな建物ができていった。
巨大な箱舟。女神像。黄金のモニュメント。
映画館。一流シェフのレストラン。遊園地。
プール。温泉。ファミレス。
ワガママ?
ワガママで済むレベルじゃねぇ。
はっきり言ってお前は――
煌は大きく叫び、ティアラに向かってゆっくりと歩き出す。
【大文字ヤマト】
失礼な奴だな。
姫が望んだものは全て手に入れる。
ワガママなど関係ない。彼女は特別なんだ。
本当だ。ずっと見てきたからな。
正直、もううんざりさ。反吐が出るくらいだ。
思うだろ普通。
気付いたら自分ん家に知らねー建物が建ってんだぞ。子供らしく素直に喜ぶと思ったら不満そうな顔してやがって。
「まだ足りない」じゃねぇ、
「ありがとう」だろ!!
そんなの知らないよ。
パパもママもウチに甘いんだもん。ウチは悪くない!
とーちゃんがお前を甘やかしてた?
お前が甘えてただけだろ!!
どうしてひどいことばっかり言うの?
どうしていじめるの?
そんな事言って本当はにーちゃんもウチの事好きなんでしょ?わかってるよ?
だってみんなそうだもん!
みんなウチが好きだから好きなものくれるの!ジュースもケーキも宝石も、なんだってくれるんだから!!
そんなのいらないもん!
何も言わなくてもくれるんだもん!言うわけないじゃん!
このケーキも、ふかふかのベッドも、新品のブランドのバッグも、VIPルームも、ぜーんぶぜーーんぶウチのものだもん!!
くれないなら帰って!
何もくれないにーちゃんなんていらない!
とーぜんでしょ!ここ、日本じゃないんだもん!
ウチ、この学校の遊園地買収するの!
もちろんこの学校だってそうだよ!
全部ウチのものにするの!すごいでしょ!
帰ってよ!!
ウチ、ほんとは知ってるんだよ?
にーちゃんがこの学校に来て、ここから出るためには鍵が必要だってこと!
サイトウさんっていう変なヤツに「先生」の代理をウチにしてって頼んだこと!!
どうしてウチの邪魔するの?
どうしてウチの言うこと聞いてくれないの?
絶対、鍵なんて渡さないから!!!
お前の言う事なんてもうとっくに…………
聞いてきたんだよ!!!
その瞬間、ティアラの目の前まで歩いていた煌は立ち止まり、ティアラに平手打ちをする。
しかしその瞬間、煌の親友でありライバルの勇輝に腕を掴まれた。
【藤崎勇輝】
悪いな、相棒。
オレはこの子のボディーガード。
たとえお前でも、この子を傷つけるっつーなら……。
そういう事だ。
兄妹喧嘩はいいが、相手が誰なのかわかってるのか?一ノ瀬財閥の令嬢だぞ!
姫が帰れと言ったら帰るんだよ!!!
だーかーらーよぉ……
金持ちとか財閥とか姫とかVIPとか関係ねーって……
言ってんだろ!!!
【後藤ケバブ】
ワイ、バーチャルユーチューバー!
"中身"を失っても元気元気!!
この子は今幸せなのさ!
それを邪魔するっていうなら、本気でいくで?アーユーオッケーイ?
鉄壁ガード?指一本触れさせねぇってのか?
あのなぁ、妹を守るのはオレの役目なんだよ。
お前はこいつの何を知ってんだ?何を見てきた?
お前はこいつの…………
何なんだよ!!!
お前、チンピラみたいな格好してんなぁ。
どこの族……いやギルドか。名乗ってみろ。
「鬼ヶ崎連合」鬼塚アモン!!
単車は「魔流血威頭(マルチーズ)」!
すると、鬼塚アモンは釘バットを持ち出し大きく叫ぶ。
その瞬間、アモンは大きく振りかぶる。
煌は一歩も動かず、アモンを睨む。
オレは目を逸らすようなチキンじゃねぇ。
カチ割るんだろ?来いよ。
次の瞬間、アモンの釘バットが煌の後頭部を直撃。
煌は手も足も動かさず、ただアモンの目を見つめたまま動かない。
(なんだ、この男……!
なぜ釘バットを避けなかった……!?)
オー……マジかよ……
後頭部ヤベェって……!
こいつ、モロ喰らいやがった……!
びっくりしすぎてメガネ落ちたぜ!
そ……そうだよ……。
ウチの言うこと聞かないからこうなるんだよ……あはは……あは……。
モロだモロ!!オレを生意気な目で見るからこうなるんだ!!
その瞬間、アモンが悲鳴を上げ、全員の視線が煌に集中。
煌は傷1つついておらず、釘バットをバキッと折るとアモンの頭をガッと掴む。
何勝った気になってんだ?
目ぇ覚ましてやろうか?あぁ?
ヒィ!?
よく見たらこいつ、人差し指と薬指だけで頭掴んでやがる!!どうなってんだああああ!?
「あれが欲しいこれが欲しい」。
お前が望めばどんなものでも手に入る。
それはウチが金持ちだからじゃねぇ。
もちろん偶然でも奇跡でもねぇ。
まして運命でもねぇ。
もっと言えば、
今こうしてお前の周りにこいつらがいるのも、
VIPルームなんてバカげた部屋があるのも、
オレがお前の親友、姫川真衣っつう女の子に出会い、カードキーを渡されてここへたどり着いたのも、全部お前のスキルの効果だ。
その瞬間、煌は強風に襲われる。
煌はアモンの頭を離すと、その場で踏ん張る。
どうして……?
どうしてウチの邪魔ばっかりするの……!?
心配!?心配って何!?
どうして「欲しい」って思っちゃいけないの!?
望んだっていいさ!
ただ、お前自身の力で望んでほしいだけなんだ!!
にーちゃんは知らないんだ……!
ウチの事……なんにも……!!
ウチ、お家で何かを望んでも叶った事ないの。「お腹すいた」って言っても、"あの人達"は笑ってテレビを見るだけ。
「痛い」って言っても、
「熱い」って言っても、
「やめて」って言っても、"あの人達"にとってウチはオモチャでしかない。
ずっとずっと独りで、ずっとずっと辛くて、ずっとずっと寂しかった。
そんな時ね、お家を見つけたの。
とってもキレイで、とってもおっきくて、とってもあったかそうなお家だった。
そのまま見てたら、
いつの間にか眠たくなって、起きたら知らない所にいた。
なんだかふわふわして、
ついに死んじゃったんだって思って、
そしたら、"あの人"に会えた。
……にーちゃんの言う通り、
ウチは何でも叶うスキルを持ってる。
「人を操る」力はその時にもらったの。
その時からね、ウチの人生は変わったの。
だって、お金もあるし、お家もあるし、欲しいものくれるし、とってもあったかいんだもん。
うん。「家族になりたい」。
にーちゃんのパパを操って、ウチをにーちゃんの妹にしてもらったの。
お前にスキルを与えた奴の名前だよ。
ゲノン帝国にいる幹部のボス、
で、オレらの世界に憧れてる人間。
……オレも会ったんだ。アイツに。
オレ、最近にこの世界に来た時、ソラマシっつう町にいてさ。
その時、ヴェイルノートに会ったんだ。
――その時、お前のスキルと妹ができた理由を聞いたってわけ。
懐かしいなぁ。
その後、未来っち、瑞希っち、陽奈っちと会ったんだよなー。
……ねぇ。
ウチ、帰りたくないよ。
ウチがスキルを持ってるのはこの世界があるからでしょ?この世界との繋がりが切れちゃえば、何にもない普通の人になっちゃうんでしょ?
だったら――
言っただろ。
オレはお前自身の力で望んでほしいだけだ。
お前には叶える力がある。
大丈夫さ。
お前はオレの妹で、オレの家族なんだ。
できねぇ事なんてあるもんか!
煌はパンチの衝撃波で吹っ飛び、部屋の壁にぶち当たってしまった。
驚く後藤ケバブ、鬼塚アモン。
そしてティアラ。
煌は倒れる寸前、ダンッ!と力強く地面を踏み、前かがみになってティアラの隣にいる男を睨む。
ははは……!
腐れ縁の親友、しかもライバルに腹パンとは……いい度胸してるじゃねぇか……!
ま〜た操られてんのか?
……これはオレの意思だ。
オレはティアラちゃんと幸せに暮らすと決めた。
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次回。
アイドルと不思議なバスの話。
31話。
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