19話 砕けファルガ!幼き自分との決別!
文字数 4,953文字
前回のあらすじ。
ノア組、ライカ組に分かれた一同。
ノア組では、パンザレスの鈴の音を聞いたドゥーンがアクアの異変に気付き、スキルを使って分身を召喚。
シラを切らしたアクアはニセモノであるドゥーンの分身を喰らいその正体を明かし、アクアがの他にも仲間がいる事が判明。
一方分身が食べられた事でダメージを負ったドゥーンは、レーザーの出る機械を操るジルード、女海賊ファルガ・ルーバーと出会う。
はぁ?何を言うかと思ったら、何カッコつけてんだ?笑わせるぜ!欲しいモンがありゃ奪ってでも手に入れる!海賊の世界には卑怯なんて言葉は通じない、海賊じゃないオレでも知ってるぜ!?
そうだな、たしかにお前の言う通りだ……それに、あたしは海賊で、あたしの宝を奪ったお前は海賊じゃねぇんなら、何してもいいよなぁ?
1つ覚えとけ。
あたしは「卑怯」が正当化された世界が嫌いでね、他の奴らからハブられてんだ。
だが後悔はしてねぇ。なぜなら、あたしはなぁ…筋の通ってねぇ奴が……!
フン。
どうやら正反対のようだなぁ?"こいつ"はお前と同じ考えを持っているんだろうが、"俺様"は違う!
やっぱり"そう"なのか。
ジラード兄弟といえば有名なアーリーナイト城の騎士。盗みなんてあり得ない。ってことは黒幕がいる。
その闇、「ファンタジア」の仕業か?お前のボスは誰だ?
ふふっ。おもしろい奴だな。
そうだ、その前に名前聞いとくか。
おいおい、間の悪い奴だなぁ……空気くらい読めよジラード。そういうの、「KY」っていうんだぞ?
【ジラード】
時間がかかると思ったら、やはり貴女ですか。もう諦めて下さい。しつこい女性は嫌われますよ?
いやぁ、散々ババアって言われたからねぇ。ここまでデリカシーのない男は初めてだよ。あたしは別に気にしないが、他の女はどうかな〜?弟のこれからが心配でならないよ。モテないぞ?
これからあたしが叫ぶ。そしたら後ろを振り向かず全力で走れ。いいな?(小声)
何をコソコソ喋ってるんですか?僕も混ぜてほしいなぁ。
そうか。じゃあ聞いてくれ。
身に覚えがあるはずなんだが、数年前アーリー城の宝物庫にあったはずの忘却の古戦場の1つ、なんとかっていう宝剣を盗んだ犯人知ってるんだよなぁ〜。
(――ううう……!なんて感動的なストーリーなんだ!絶対忘れないよお姉様!!)
聞きたい?聞きたいよなぁ?じゃあしょうがないなぁ〜。じゃあ言うわ。
ファルガの心温まるセリフを想像して走ろうとするドゥーン。
しかし、あろうことかファルガは壁に手を当てて叫ぶ。
えええええええええええええええええええええええええ!??
……なんとなくだけど、ゴゴゴゴって聞こえるような……?これは地鳴り……?
ライカ?違うね。"アイツ"は派手な事が好きでね、スタイルと顔は良いのにかわいい服も着ない、女らしくない、一度言ったら聞かない。アクスビットじゃ有名な悪ガキでね。母ちゃんに「アイツと遊ぶ」って言って、よく叱られたもんだよ。
それだけじゃない。「海底洞窟のトラップをわざと踏んで大岩を追い越し、粉々にブッ飛ばすんだ」なんて言うんだ。あの時は誰もが驚いたよ。
そう、奴はこのアクスビットが生み出したバーサーカー!!そして、元ブラックローズ騎士団、ファルガ・ルーバー!!!
その瞬間、ノア達の視界にこちらに向かって転がってくる大岩とファルガが見えた。
まだ距離はあるが、あの大岩はバケモノでね。このままこっちへ来ればひとたまりもない。全員お陀仏さ。
言っただろ。アイツは一度言ったら聞かないんだ。止まらねぇよ。
止まらないって……!
まさか、"海底洞窟のトラップをわざと踏んで"……ここまで走ってきたっていうの!?無茶よ!
アイツの父ちゃんと母ちゃんはな、あの大岩の下敷きになって死んだんだ。30年も前にな。
ソフィーの母親が財宝を持ち、帝国へ渡そうとしている最中"敵"が現れたんだ。そして、アイツの両親がお前の母親を助けるためにこの海底洞窟に入った。その途中、壁に触れると発動するトラップの事を知っていた敵は……。
結果、ソフィーの母親は海底洞窟の奥に閉じ込められ、ファルガの両親は死亡。"敵"は財宝を持ち去った。そして……
『いつか大人になったら!!洞窟のトラップをわざと踏んで!大岩なんかよりも早く走って…!粉々に……粉々にブッ飛ばしてやるんだ!!!』
……ファルガは両親が死んだのをソフィーの母親のせいにはしなかったんだ。いい奴だろ?
そして今、大人になり、このアクスビットに帰ってきたんだ。今のアイツに……
『あたし、この町を出る。
ジョブカウンターで海賊になってきた。これから世界中を旅して、強くなって、またここに帰ってくる。そしたらさ、また会ってくれよな♪』
一方、ドゥーン、ファルガサイド。
ドゥーンは激怒していた。
「誰かいるな」じゃないんですけど!?ミーの名前ドゥーじゃなくてドゥーンだし、盗んだ覚えないし、なんであんな事言ったんですかお姉様ー!?
え?だってほら、冒険にはスリルが大事だろ?どうせ走るんだしいいじゃないか。
はい、洞窟といえばトラップ。トラップといえば金銀財宝。金銀財宝といえば?
その瞬間、ファルガはドゥーンの頭を指で摘むと、遠くに見えるノア達に向かって大きく振りかぶった。
ちょちょちょちょタンマタンマ!?
って指だけで摘まれてるーーーーーーーーーーーーー!?どんな怪力!?なんでぇ!??
おーーーーーーーーい!そこの奴らー!
悪いんだけどこいつ、受け取ってくんないかーーーーー!?
受け取らなくて…いや受け取って受け取って!!
って何する気……おいおいおいおいやめろーーーーーーーーー!?
嫌だあああああああああ投げないでええええええええええええええ!??
ファルガは勢いよくドゥーンをブン投げる。
空中をすごいスピードで飛ぶドゥーンを、見事ノアが受け取る事に成功。
しかし本人はもはや意気消沈。
叫ぶドロシー。
ファルガは、ドロシーとノアがいる事に気付いた。
ゲッ!?ノ、ノノノノア……!?なんであいつが……!?
大岩よりも早く走っていたファルガは、剣を捨ててその場で止まる。
そして、大きく深呼吸。
その表情は、とても穏やかだった。
……これで父さんと母さんが帰ってくるわけじゃねぇ。そんなのはわかってる。あたしは、あの日何も出来なかった弱い自分にケリをつけに来たんだ。
ファルガはノア達に背を向け、猛スピードで転がってくる大岩の方を向き、走り出す。
そのスピードは誰よりも早い。何よりも早い。
そして、見る者を熱くさせる彼女をこの場にいる誰にも止められはしない。
ファルガは、獣のように大きく叫び、右手に力を込めた。
ぅぅぅぅううううううううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
ファルガの叫び声と大岩の轟音が鳴り響く海底洞窟。
そして――
し、し、し、死”ぬ”か”と”お”も”お”も”お”も”お”も”も”も”も”も”も”
どーしたんだよー?生きてんだからいいじゃねーかー!
ファルガ。なんつーか、その…………おかえり、だな。
ななななんだーーーーーてめぇ!恥ずかしくなんてなってないからな!?ニヤニヤすんじゃねーぞ!?勘違いすんなよおおおおおおお!?
…大した事じゃないさ。父さんも母さんも居ない。団長もいない。敵の居場所もわからない。今まで通り、毎日が続くだけだ。
う”う”ん。そんな事ないと思うぞ。
オレ達の仲間にライカという異世界人がいてな、スキルがあれば居場所がわかるかもしれない。
わわっ!私、どうして港にいるんですか!?市場にいたはずですけど…!
うっうわぁ!?この子は敵だ!なんでオレの分身を…!!
いいや、ドゥーンのニセモノを食べたのはアクアであってアクアではない。
そうだ。オレ達が市場に行った時から様子がおかしかった。何者かがアクアを操ったんだろう。
………はは~ん。なるほどなぁ。そういう事か。
つまり、チョコと協力している誰かがアクア、ジルード、ジラードを操ってあたしらに喧嘩売ったんだ。いい度胸してるじゃねぇか!
あたしも協力してやるよ!敵の”協力者”が誰なのか検討ついたし、まだあの兄弟に宝を返してもらってないしな!それともノア、あたしがいちゃ困るのか~?
ん~そうだな…。
いいか?ジョブにはな、厄介なジョブがあるんだよ。
影騎士ってのがあってな?闇を媒体に、混乱をもたらす攻撃ができるんだ。影騎士以外がその装備をすりゃ、たちまち暴走し、戦闘マシーンになる。
…もっと厄介なのがナイトメア。
ナイトメアは自分の「負の心」を媒体に力を増幅させるジョブでな、周りにいる人間やモンスターの闇も吸収することでさらに力を増幅させられるんだ。
その通り。自分1人の悔しさ、憎しみ、恨み、怒りならそこまで力は増えないが、不特定多数の者の心も力に変えられる。無限ではないが、本人の心によって容量が変わる。
そして、あたしの検討が正しければ”そいつ”はとある3人の闇を力に変えてるはずなんだ。
3人…?
ということは、量より質を取ったということね?
ああ。奴が取り込んだのは、
ゲノン帝国の幹部、チョコ…
帝国幹部をまとめるヴェイルノート…
そして、ゲノン帝国皇帝……その全ての闇を持ってる……
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