20話 謎の男アンバー・ファンタジア!
文字数 3,727文字
アクスビット。冒険者ギルド。
両手に鋼のツメを装備した赤髪の青年が、グロテスクなモンスターの死体をクエストカウンターに置き、笑っていた。
怯えるぷち。静まり返る冒険者ギルド。
誰もが命の危険を感じる中、赤髪の青年は無言で右手を挙げる。
お客様。
申し訳ございませんが、こちらのモンスターの討伐クエストはございません。お引き取り下さい。
そこまでです。まったく、勝手に走らないで下さい。走るのは苦手と言ったでしょう。
冒険者ギルドの入口に、全ての者の目が集中する。
そこには、紳士らしい青年が立っていた。
あぁ失礼。そんなに見つめられましても、踊り子やソードダンサーではありませんので何もお見せできないんですよ。
旅の仲間が皆様を驚かせてしまったようで……さぁクーガー、行きますよ。
どのモンスターを討伐対象にするかは町の冒険者ギルド次第。それは仕方のない事です。そんなに報酬が欲しいのなら私があげますから安心して下さい。皆怖がっているじゃないですか。
そう言うと、謎の青年は帽子を取り礼をし、赤髪の青年クーガーと共に冒険者ギルドを出て行ってしまった。
****
――時を遡り、アクスビット。井戸の中。
ドゥーンが鈴の音を聞いて、アクア達から離れ1人で行動していた時。
ソフィー、シルキー、ライカ、パンザレスのライカ組は、井戸の縄を使って底に降り、ノア組と同じような洞窟にたどり着いた。
きゃ!?自分の顔を青白く光らせて何してんの!?びっくりしたじゃない!
いてっ!
新技だって新技!!これなら明るいじゃないか〜!
肝試しにもってこいの新技なら私も持ってるぞ?メガロアークを巨大化させてパンザレスを閉じ込め、剣を刺していく。"パンザレス危機一髪"なんてどうだ。当たったら夜空に打ち上げてあげよう。
あっ。やっぱりバラバラゲームがいいか!それともグチャグチャがいいか?はははは!
(呑気な異世界人だねぇ…今頃"向こう"じゃアクアとかいうのが人間を食い散らかしているところだろう……)
(俺もひと仕事するか……仮にも皇帝の闇の一部として生まれ、自我を持ったんだ。手始めに1番簡単そうな女から殺ってやるか……)
だーかーらー、それはどうかなと思うわけだよ!わかる?
わかったわかった。めんどくさいしシルキーに選んでもらおう。
パンザレスの股間を下から撃つか上から撃つかどっちが汚いと思う?
俺って言い方、シルキーちゃんには似合わないよなぁ〜。やっぱりかわいい「ウチ」がしっくりくるよ!
うわお!?急に大胆になったなぁ!女の子が「お花摘んでくる」って言うと、妄想が加速するっていうか〜
メガロアーク、北海道と九州まで空の旅決定だそうだ。
早急に手配してやれ。もちろん待った無し!!!
お前も魔物か?ちょうどいい、暇つぶしに付き合ってもらうぞ。
(なっ!?なんでこの男がここにいるんだよ!?飼い主が野放しにしてるのか!?)
なんかヤバいの来たああああああああああああああああああああああ!?
死んだフリ。
クーガー…確か帝国の皇帝が生み出した怪物……。どうしてここに……!
【アンバー・ファンタジア】
おや?どうして私の名を知っているんですか?
お、おい!女の子達に手出すつもりなら容赦しないぞ!!
あぁ、安心して下さい。私は異世界人にとても興味がある。
皇帝の言う「日本」とはどういう所なのか?文明は?食事は?経済は?「スキル」とは?無意味な争いはしません。
私の要件は2つ。
1つはシルキー・クローバー。貴女につきまとっているストーカーさんの事です。
我々ゲノン帝国にはジェイドという協力者がいましてね…。彼はナイトメアというジョブを使い、強大な闇を力に変え、この世界のどこかに潜んでいる。
ですが、彼の能力にはもう1つあり、皇帝から吸収した闇を様々な人間に宿らせ操る事ができる。
しかしここで欠点がある。闇は、元の皇帝の体の中、あるいは吸収したジェイドの体の中にいる時は忠実に従いますが、ターゲットに宿らせると自我を持ち、文字通り「好き勝手」に行動してしまう。
……そして、周りの者からは操られている者と特定され、最後には周りの者に取り押さえられ死んでしまう。
! まさかストーカーというのは闇!?シルキーは操られているのか!?
……へへへ……自由でいて何が悪い……
誰にも邪魔はさせねぇ!この女の体を好きにさせてもらうぜ!?
おっと近付くなよ!
そこのお前!パンザレスとか言ったなぁ?俺様に従うなら、脱いでやってもいいぞ?お前も見たいだろう?若い女の体を!
パンザレスさん。いや、黒岩さん。残念ですが、我慢ですよ♪
いいえ。死にません。何故なら、今絞めているのは――
ええ。私はゲノン帝国の関係者。
ですが、卑怯な者や残虐な者は嫌いなんですよ。
い、いいのか…!?これは裏切りだ!!
このことが皇帝にバレればお前の命はないんだぞ…!
そう言うと、アンバーは右手を前に出し、シルキーの腹部を触る。
するとどうだろう。右手がシルキーの体の中に入って行った。
本体は痛くも痒くもありませんよ。大丈夫。
痛いのは――
ふぅ。これで大丈夫でしょう。
シルキーさん、シルキー・クローバーさん。わかりますか?
今はまだ秘密です。ではもう1つの要件を果たしましょう。
ライカさん、ソフィーさん、パンザレスさん。
ジョーカーという少年を見かけませんでしたか?
たしか、ヴェイルノートという者から異世界人を1人選べと言われてここに来たの。その中の1人がライカちゃんだったけど、説得したら言う事を聞いてくれた。
その後か。
私と一緒にチョコと戦ってくれたんだ。その後、どこかへ消えてしまった。
(トランポリン……?
なるほど、異世界人ゴラゴランと名前を間違えてるのか……)
ふふ。彼らしいですね。たぶんゴラゴランと言いたかったんでしょう。
わかりました。では私達はこれで。
………安心して下さい。彼と私は特別な関係にある。手を出したりしませんよ。
では失礼。冒険者ギルドでひと休みして、出発するとしますか。クーガー、行きますよ。
……いた!!魔物!!八つ裂きだああああああああ!!
ああもう、天井が崩れたらどうするんですか。
って聞いてませんね。こら、そっちは海水ですよ!泳げないでしょう!溺れたいんですか!?
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
本当に天井に穴を空けるとは…!こら、待ちなさーい!!
クーガーって奴、壁を掘り進んで地上まで行ったぞ……
な…なんだったんだ……
おーーーーーーーーーーーーーーーい!パンザレスいるかーーーーーー?
かくして、ジェイドの闇に操られていたアクアとシルキーは正気を取り戻し、
ファルガ・ルーバーが新たな仲間となった。
だが、戦いはまだ終わっていない。
いつの間にか姿をくらましたジルード、ジラード、そして2体の闇を打ち破られたジェイドが動き出す。
海底洞窟の奥。暗闇の中で。
【ジェイド】
おいでよ……僕と1つになろう……?メラニー……!!
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